Q&Aでわかる肥満と糖尿病 2005年 Vol4 No6 P998-999
小児脂肪肝への対処法について教えてください
1.脂肪肝を来たす疾患の鑑別診断
小児において血液肝機能検査異常と超音波検査などの放射線検査によって脂肪肝が見つかった場合,原因疾患により対処法が異なるのでその鑑別を行います.薬剤性肝機能障害,先天性・代謝性肝疾患,ウィルス性肝疾患,自己免疫性肝疾患に相当する場合は各疾患に応じた対処を考慮します.しかしそれらに当てはまらないケースが多く,概ねnonalcoholic fatty liver disease(NAFLD)に相当します.NAFLD確定診断のゴールデン スタンダードは肝生検ですが侵襲的な方法であるため,前述の疾患の除外診断を行い残った疾患をNAFLDと考えれば実際には問題ないようです.
2.NAFLDと診断した場合の対処
NAFLDは近年肥満小児の増加と共に増加が問題となっている疾患です(1). 本邦の市中の小児での有病率を検討した報告では,810名の幼稚園あるいは小学校に通う4~12歳の小児に超音波検査を行い,脂肪肝が2.6%に見られ肥満の程度と相関が認められています(2).NAFLDの自然経過は成人での研究では,肝生検で炎症も線維化もなくsteatosis(脂肪変性)単独であれば非進行性と言われています(3).
3.NASHについて
ところが飲酒歴が乏しいにもかかわらず線維化や肝細胞の風船様変化が見られ組織像がアルコール性肝炎と酷似し,一部が肝硬変に進展して行く疾患があります.それがnon-alcoholic steatohepatitis (NASH)です.NASHについては別の稿で取り上げられていますのでここでは詳記しませんが,成人のNASHの長期予後を見た研究では,一般にはゆっくりにしか進行しない疾患です.しかし最終的には患者の20%前後が肝硬変に進展します(3).小児では1983年に始めて報告されていますが(4),小児においてNASHと診断されるケースがある場合は,成人以上にその罹病期間が長くなるので,成人より徹底した対策が必要と考えられます.
4. 治療の試み
本邦においてはTazawaらが6~14歳の肥満小児を対象に,体重減量がAST・ALTと超音波検査での脂肪肝所見に与える影響を検討しています(5).これによりますと減量前に肝機能上昇が存在していたケースでは,減量後の肝機能正常化および超音波検査での脂肪肝所見の消失が有意に多いと言う結果でした.興味深いこの研究ですが,観察期間が3ヶ月と短く,減量の割付けは無作為化せず参加症例全例に摂取エネルギーを4/5に減少させるよう指導し,結果として減量が達成できたかどうかで減量群,非減量群を割付けしており,様々なバイアス(Key Word)が介在しているようです.とは言えNAFLD,NASH治療の基本は食生活習慣改善と減量にあることは小児においても成人と同様であり,適正体重を目指した減量の指導が肝要です.
Key Word
バイアス:この論文(5)では,患者の割付を無作為化していません.結果として減量が達成できた群を減量群,減量できなかった群を非減量群としています.このようにして治療群を分類した場合,AST・ALT,超音波所見の改善を減量の効果とみなして良いのでしょうか.減量群は「摂取エネルギーを4/5に減少させるように」指導を受けただけで,減量を達成した訳ですが,このような指導だけで減量が可能となるような健康志向の強い患者群では,自ずとほかの治療効果のある介入を行っているかも知れません.例えば運動療法や食事内容の変更(エネルギーはそのままでも)などです.このように無作為割付されていない研究では交絡する因子を制御できないので,論文の結果を解釈する際に注意が必要です.
Advice
肥満小児に対して指導を行う場合,①食事,②運動,③生活習慣の3つを改善する必要があります.①食事はおやつも含め現在の食事の内容の検証が必要です.問題点を明らかにした上で年齢にあった必要カロリーを示します.体重は無理に減らすと必ずリバインドしますので,むしろ増えないことを目標とし身長の伸びを待ちます.毎朝体重測定をすることも励みになります.食事についてはかなり専門的知識を必要としますので栄養士による指導のほうがよいと思われます.適度な食事にするだけでかなり体重は減ります.
②運動療法,③生活習慣改善についてはなかなか実行してくれません.いずれにしても障害となっている問題点の抽出が重要です.おそらく全く運動をしていない筈ですので,家族に頼んで歩くことから始めるよう指導してもらいます.家の中で母親とできる運動もあります.1日1時間は汗をかくことを目標にします.そうすれば内臓脂肪が燃えます.そのほか早起き,1日3食きちんと食べる,お手伝いをする,テレビゲームは1時間以内など,いくつかポイントとなる項目があります.急に運動をしますと膝など痛め安静にしなくてはいけなくなってしまいます.注意が必要です.
文献
- Sathya P, Martin S, Alvarez F. Nonalcoholic fatty liver disease (NAFLD) in children. Curr Opin Pediatr.; 14(5):593-600. 2002.
- Tominaga K, Kurata JH, Chen YK, Fujimoto E, Miyagawa S, Abe I, Kusano Y. Prevalence of fatty liver in Japanese children and relationship to obesity. An epidemiological ultrasonographic survey. Dig Dis Sci.;40:2002-9. 1995.
- Younossi ZM, Diehl AM, Ong JP. Nonalcoholic fatty liver disease: an agenda for clinical research. Hepatology.;35(4):746-752.2002
- Moran JR, Ghishan FK, Halter SA, Greene HL. Steatohepatitis in obese children: a cause of chronic liver dysfunction. Am J Gastroenterol. 78(6):374-377. 1983
- Tazawa Y et al. Effect of weight changes on surum transaminase activities in obese children. G.Acta Paediatr Jpn.;39(2):210-214,1997.