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愛知医報 2000年3月20日号 (第1607号)


書評  
「根拠に基づく医療,EBMの実践と教育の方法」

David L Sackett 著,久繁哲徳 監訳
薬事時報社 1999年3月発行 \4952

名古屋市南区  伊藤伸介 
  この1年でEvidence based medicine関連の書物3冊に目を通した.始めに名郷直樹著「EBM実践ワークブック」を読んだ.感想は「ムッムッ,おもしろい.日常診療の疑問解決のため,まねをすれば私にもEBMはできるかもしれない」であった.そこでコクランライブラリーなるCD-ROMの定期購入を開始したが,あえなく討ち死に.次にRHフレチャー著,福井次矢訳「臨床疫学,EBM実践のための必須知識」を読んだ.感想は「EBM実践のため統計学の知識が必要と思ったが,やっぱりそうだったか.医科統計学は奥深いぞ」というところまでわかったが,どう奥深いかは消化不良のまま終わってしまった.そして最後に読んだのが今回ご紹介する「根拠に基づく医療,EBMの実践と教育の方法」である.
  内容はEBM4つのStepについて1つずつ順に解説が行われる.Step1ではEBMの対象となっている患者から,問題点を定式化することの重要性を簡潔にまとめている。Step2の項では情報の収集法について、特に本書では先に上げた2冊の著書より詳しく記載されている。教科書(P65)や総説論文(P13)からの情報だけではなぜ十分ではないのか、最新の論文にまでのアクセスがなぜ必要なのか、具体的に行った検索事例を示しながら軽妙に解説が加えられいる。Step3「根拠を批判的に吟味する」は本書で最大のヴォリュームが与えられ、診断・予後・治療に関する論文を吟味する上での要点については大変わかり易く書かれている。しかし経済的分析、ガイドラインの妥当性の判断ともなるといささか難解であった。この項の最後に付されていた批判的吟味のための図も、普段使い慣れたマクマスターのものとは大きく異なっていた。批判的吟味の実際についてはJAMAUser’s guides to the medical literatureシリーズが分かりやすいと思う。Step4「患者への適応」の項に関しては、Step3の部分と同じ感想である。最後に本書の特徴としてEBMの教育法についても取り上げられていることがある。読者がEBMの教育を行う場合の心構え,レクチャースケジュールの例まで書かれている.全編を通して、あふれる情報の中から、貴重な時間を割いてまで読む価値のある論文を選択することが重要であるという精神が貫いているように私には感じられた。
 翻訳については,原文が分かり易いのもではないため,苦労した結果できるだけ忠実な翻訳を試みたと記されているが(監訳者前書き),難解な内容であるが故に読者の理解を促すために原著者の意図する所を歪曲しない範囲で,柔軟に意訳をしても良かったのではないだろうか.
  以上3冊にはそれぞれ特徴があり、私にとってEBMの入門には名郷直樹著「EBM実践ワークブック」が最適であった。その本から読み始めて良かったと思う。本書は3冊目ということもあり、今まで消化不良であったことの再確認ができ大変満足であった。しかし本書の内容が名郷氏の著書に比べて多岐に渡り、その分より多くの臨床疫学的専門用語も登場し、EBM入門書として読むのには難解であるように感じられた。