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非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が街にやってくる

名古屋市内科医会で,西原利治先生が,非アルコール性脂肪性肝炎 (以下NASHと略す)について講演をされた内容を元に作成された講演録です.演者の許可を得てここに公開します

演者 高知大学医学部第一内科 助教授 

西原利治


講演  平成16年10月2日  愛知県医師会館

名古屋内科医会会誌 2005年Mar.15 No.119 p61-70  記録作成  名古屋市南区 伊藤伸介

内容

1.はじめに
2.NASHはどこに存在するのか
3.NAFLDの診断
4.NASHの予後と肝疾患の将来予測
5.NASHと代謝症候群
6.NASHの1例−発症はいつになるのだろか−
7.NASHの診断
8.酸化ストレスとNASH
9.治療
10.NASHとインスリン抵抗性
11.最後に

1. はじめに

図1 NASHの肝組織像

 1950年代のヨーロッパでは糖尿病が猛威を振るっていた.当時,糖尿病患者の多くが肝機能障害を併発していたが,アルコール性肝炎に類似した糖尿病の合併症の一つとして片付けられ特に名称が付けられることもなかった.しかし糖尿病から肝硬変に至ることは認識されており,糖尿病の約1割は肝硬変で死亡するというのが当時の常識であった.

 1980年,米国の病理学者であるLudwigは,この病態を糖尿病の合併症とは異なる独立した一疾患として位置づけ,non-alcoholic steatohepatitis(以下NASHと略す)と言う病理学的名称を与えた.組織像では(図1),肝細胞の膨化と脂肪滴を認め,しばしばマロリー体を伴っていた.マロリー体はアルコール性肝炎に特徴的な所見であるため,NASHの原因はアルコールに決まっていると考える臨床家達は,NASHと言う独立した疾患の存在を認めず一蹴した.

 1998年になり,ようやくNASHが独立した疾患であることが認められ,米国国民の3%から5%はこの疾患に罹患しており,欧米における肝硬変の多くがこの疾患のなれの果てであると考えられるようになった.欧米においてはウィルス性肝炎の有病率は大変低いため,ウイルス性肝炎から併発してくる肝癌ははほとんどない.したがって基本的に白人がかかる肝硬変で肝癌に進展する症例は,恐らくこの病気のなれの果てであろうと推測されているのが現在の状況である.
 


2. NASHはどこに存在するのか

図2 米国肥満人口の推移

 米国では肥満,特にBMIが30を超える高度な肥満人口が多く,近年さらに増加している(図2).そのうち約1割がNASHを合併していると推定されているので,全人口から見た場合は3%程度がNASHに罹患していることになる.1980年台にはNASHの存在は否定されていたが,それでも当時のBMI 30以上の人口比から,おおよそ60人に1人はNASHに罹患していたと図2から想定されるのである.

 現在,本邦ではBMIが30を超える高度な肥満人口は3.4%程度なので,日本全体では100万人弱がNASHに罹患していると推定される.

 このような推計から,人口200万強の名古屋にもNASHが2万人ほど存在すると考えられる.しかし中々みつからない理由としては,簡潔に言えば診断が容易にできないという点に要約さるのではないだろうか.C型肝炎であれば,肝機能障害がありHCV-RNAが陽性であればC型肝炎であると診断してほぼ間違いない.しかしNASHには,採血で答えを教えてくれるというような手軽なマーカーが存在しない.

私の学生時代には,表1のような鑑別を行っていけば各種肝疾患が鑑別診断でき,残りはアルコール性肝炎であると教育を受けたものであるが,現在は少々状況が変わっていると考えられる.

  図3は日本病院会から発表された人間ドックにおける高脂血症,耐糖能障害,高血圧,肥満,肝機能障害の6項目の異常について,その頻度を示したものである.これによると1980年台前半は集団検診の結果,肝障害が見つかる人は8%内外であった.ところが現在,4人に1人が肝障害を指摘されている.何が原因なのだろうか.ウイルス性肝炎はさほど増多していないはずである.代謝異常による肝疾患も増える理由はない.自己免疫性肝炎も同様である.とすれば飲酒,あるいはそれ以外の何からの原因で肝障害を示す人が増えていることになる.ワインブームということもあり確かに若い女性の飲酒量は増えているが,1980年台前半の時点で4%ぐらいであったアルコール性肝障害の頻度が20数%まで増える,つまり5倍程度増えているのかと問われれば疑問の余地がある.

 図4は高知県で検診にて肝障害を指摘された400余名を集積し,原因別に割合を示したものである.高知県はアルコール多飲者が多いのか,過半数はアルコール性肝障害と考えられた.つまり約3合/日以上の飲酒があり,それを減量中断すると改善する人々である.一方ウイルス性肝障害の占 割合は肝障害を示す人の中ではごく小さな群であることが分かる.したがって健康診断で肝機能障害を認めた場合には,ウイルスマーカーを調べ,陽性であればウィルス性肝障害に分類,酒を3合以上飲んでいればアルコール性肝障害と考えることができるわけである.以上の分類を行ったあとそれらに含まれなかった肝機能障害を呈するケースはどうなるのであろうか.それは厳密に言えば原因不明と言わざるを得ない.しかし一番に疑うべきは薬物性肝障害である.やせ薬や鬱金による肝障害は結構多い.以上を除外できれば最後に脂肪肝を基礎疾患とする肝障害が残る.つまり飲酒歴はないが,AST,ALTが少し高いようなケースである.

 脂肪肝に伴う肝障害は「そんなもの大した病気ではないじゃないか」と内心思い,「一部にC型肝炎もあるのだから」と自分に言い聞かせ診療していた時期もあった.でも,その侮っていた軽症の肝機能障害例が実は重要であることに気が付いた.軽度の肝機能障害を認め画像診断で脂肪肝が見られると言うケースこそ,是非精査を薦める必要があることを主張したい.現在,そのようなケース全体をnonalcoholic fatty liver disease(NAFLD)と呼称している.将来はウイルス性肝炎よりもはるかに重要性が増してくると考えている.なぜなら血液製剤等によるウイルス性肝炎が減少し続けている昨今,過栄養にある日本人の中でNAFLDの占める割合はどんどん増加することが十分予想されるからである.

表1 肝疾患の鑑別 図3 人間ドックでの各種以上の出現頻度 図4 高知県の検診で発見された肝障害の最終診断

3. NAFLDの診断

 図5 脂肪肝の組織像
−可逆性病変(下)と高度な脂肪変性(上)−

  NAFLDの診断について述べる.健康診断で肝機能障害を指摘された症例が受診した場合,まず腹部エコーを行い胆石や悪性腫瘍の存在を除外すると同時に,脂肪肝の存在診断を行う.次に飲酒歴を問診し,飲酒歴がなく画像上脂肪肝があるという症例がNAFLDと診断される.その一部が肝硬変に進展して行く訳であるが,それがNASHなのである.つまりNAFLDの一部がNASHでその一部が肝硬変に進展するわけである.脂肪肝の病理組織像を見てみよう.図5は肝臓を針生検し,ヘマトキシリン・エオジン染色したものである.下段の像は全体の中の3分の1程度が泡状に白く抜けて見えているが,これは脂肪滴を含む肝細胞である.このような下段の像は良性可逆性の病態で,以前は全く心配ないと考えられていた.ところが最近は上段のように70〜80%もの肝細胞が脂肪滴を含む症例が出てきている.一般に肝臓は正常の肝細胞数の約3分の1が残っていないと肝不全に陥ると言われており,正に肝移植のときにそのようなことが再認識される.それを考慮すると,上段のような肝組織を呈する症例がなぜ生存できるのか不思議だということになるが,実は肝臓の体積が倍増して肝臓の機能を維持しているのである.



4. NASHの予後と肝疾患の将来予測

図6 NASHの予後

 NASHの予後について日本人のデータはほとんどない.なぜなら2000年以降初めて学会で取り上げられるようになった新しい概念の疾患であるからである.図6にNASHとの診断が得られた後,長期間観察がなされた欧米の40症例の予後を示す.長期経過が見られた症例が40例しか集まっていないことからも,いかに新しい疾患概念かということがわかっていただけると思う.

 この報告によると,NASHであっても約半数は10年経ってもほとんど問題のないことが分かる.しかし残りの半数は病状が進展し5人に1人程度は肝硬変に至る.したがって,もしこの成績が日本人にも当てはまるとするなら,名古屋に2万人NASH患者が存在するとした先の仮定を採用すると,その中から10年後には4,000人が肝硬変に至ることも考えられる.名古屋にウイルス性慢性肝炎(慢性B型あるいはC型肝炎)が3万人少々存在すると仮定すると,その人たちが肝硬変になる確率はおおよそ10年で10%ぐらいなので,総数では3,000人と推計される.そうなると10年後に新たに肝硬変になる人の2分の1ぐらいはNASHが原因であるということになる.新規にウィルス性肝炎を罹患する若い人が激減している現在,ウイルス性肝炎の患者は高齢化する一方である.そのような未来を考えた場合,ウィルス性肝炎の主役がB型肝炎からC型肝炎に変化したように,若い世代における慢性肝障害は将来アルコールと肥満がその原因の主流になっていくと考える.私たちが医学部を卒業したころは,肝硬変というとB型肝炎によるものがかなり多かった.ところがいまの医学生たちはB型肝炎をほとんど知らない.現在ではC型肝炎の肝硬変から肝癌に進展するケースが大変多く,そのような患者が頻回に入退院を繰り返している.おそらく30年後の医師はC型肝炎もあまり経験しなくなると思われる.事実高知県では既に60歳以下のC型肝炎というのは少なくなってきている.30年後であれば90歳以下のC型肝炎はほとんど見られないという時代になるのである.

5. NASHと代謝症候群

表2 代謝症候群の診断基準項目

  肥満には2種類ある.皮下脂肪が蓄積する肥満と,腹腔の腸管周囲に脂肪が蓄積する内臓型肥満である.NASHの患者の88%はこの内臓型肥満である.そこでNASHを見つけるヒントであるが,一番簡単なのは代謝症候群というキーワードに一致する症例を探すことである.

 内科医でも消化器専門医はその一部である.循環器専門医や糖尿病専門医なども多い.そしてNASHは代謝症候群を呈して消化器科以外を受診することが多いのである.つまり消化器専門医だけがNASHという病気を勉強しても,多くのNASHは見落とされてしまうのである.NASH患者が直接,消化器専門医を受診すれば恐らくNASHは発見される.あるいはNASHの疑いという病名をつけることはできる.そのような症例は全体の4分の1から5分の1と推定されている.消化器科を受診せず,糖尿病や高脂血症として内分泌代謝科を受診したり,高血圧のため循環器科を受診している症例が大半であると推定されている.生活習慣病を重複して罹患している人の多くが,代謝症候群なので,それら疾患の診療を担当している医師にNASHという病気を覚えていただかないとどうしようもないのである.

 表2にAdult treatment program V(ATP-Vと略される)による代謝症候群の診断基準を日本人の体型に合わせて改訂した診断基準案を示す.ここに上げた5項目のうち3項目以上を満たした場合,代謝症候群と診断する.表2の一番右側には,NASHにおいてこれらの特徴がどの程度見られるかについて頻度を示している.NASHの70%の症例でウェスト周囲長が代謝症候群の診断基準値を超えている.高血圧を合併しているものも70%を超える.したがって,診療所を受診中の高血圧患者で肥満を合併している場合,NASHが潜んでいないか疑っていただくことが大切になる.脂質代謝異常の合併頻度は前2者に較べると低下する.空腹時血糖異常についてみるとさらに頻度は低下する.ヘモグロビンA1cについてみても同様である.しかし後述するようにブドウ糖経口負荷試験(以下OGTT)を行うと糖尿病パターンを呈することが多い.

 肥満で顕性の糖尿病がある場合は,空腹時インスリンの測定を行う.それが高値を示した場合,NASHの存在を疑う.またこのようなNASHは比較的進行した症例が多いので注意が必要である.一方比較的早期の症例では,空腹時血糖はあまり高くないということを記銘していただきたい.逆に言えばNASHというのは隠れ糖尿病である.ヘモグロビンA1cも上昇していない.とすれば糖尿病の診療を担当している医師は「半年に1回のフォローで良い」と言ってNASHを放置してしまう可能性もある.OGTTを施行すると耐糖能低下あるいは糖尿病パターンを示す.しかしヘモグロビンA1cも正常で空腹時血糖も正常であるとしたら,先生方は治療なさらないでしょう.ということは,患者さんの足が遠ざかってしまう.


6. NASHの1例 −発症はいつになるのだろうか−

 NASHの1例を提示する.この症例は私の大変親しくしていただいているある開業医の元で治療されていたため,10年間にわたる病歴をさかのぼって追跡することができた症例である.当初BMIが30あり,耐糖能検査にて糖尿病パターンを認めたこともあり主治医は食事療法によりBMIを25まで低下させることに成功した.伴わせて高かった中性脂肪も150 mg/dlという正常上限近くまで低下させることができている.今回はASTとALTが体重減量にもかかわらずむしろ上昇し150を超えたため当院へ紹介されて来院した.そこで肝生検を行ったところ肝硬変一歩手前のstage 3まで進んでいた.ウイルス肝炎の場合,肝硬変の直前まで進行している症例では,過去いずれかの時点で肝機能の急性増悪,つまりASTやALTが百から数百という時期のあることが一般的である.しかしこの症例の場合,3か月ごとに肝機能が追跡されていたが,そのような急性増悪の時期は観察されていない.このような症例はどのように診断し扱ったら良いのだろうか.主治医は生活指導も行い,医療側としてはきちんとするべきことを行っている.にもかかわらず来院時には肝硬変の手前であるstage 3になってしまっている.もう5年程度遅く紹介されて来たのであれば既に肝硬変になっていたことも考えられるのである.

 ここで表3を見ながら,どの時点でNASHを発症しているのか検討してみたいと思う.まず代謝症候群について検討してみたい.1992年の時点でBMIが30以上あり,腹囲は小さいとは考えにくくウェスト周囲長は代謝症候群の基準を満たしていると考えられる.血圧も130/85mmHgを超えている.中性脂肪も150以上である.したがって表2の診断基準の3項目を満たし代謝症候群と診断される.現在の医療水準からすれば,既に92年の時点で肥満,高血圧,高中性脂肪いずれかの治療を開始するべきである.ただしこれは2004年現在の知識に基づけばと言うことであり,92年当時にはこのような考え方は存在しなかった.この症例では92年以降フォローされ食事療法などで比較的うまく管理されている.しかし93年11月に軽度の肝機能障害が出現した段階で,現在の知識に照らし合わせればNASHを合併していないかと考え出しても良かったのかも知れない.ただしNASHと言う病名が世に登場したのは98年12月なので考えつかれなかったことは勿論やむ得ない.再度NASHの存在について気付く時点があるとしたら,97年8月にOGTTで糖尿病性パターンが観察された時点が挙げられる.ここに至っては典型的臨床像となっている.

 この症例からもお分かり頂けるように,今後は代謝症候群がある方に肝機能障害を認め,アルコール性肝障害やウィルス性肝炎などが除外されれば,NASHの存在を念頭におくようにしていただきたい.

図7  表3 NASHの発症はいつでしょうか

7. NASHの診断

図8 脂肪肝のCT像

(1)理学所見と検査所見

 NASHを疑う所見としては,恰幅の良い肥満者にまず注意する.次に血圧が130/85mmHg以上ないか測定する.さらに肝機能障害を検査し,軽度にしても異常値がある場合,NASHの可能性があると考える.そこで表1に示した除外診断を行いつつ除外診断で絞り込んでいく.

(2)CT所見

 画像上,脂肪肝を呈する患者の98%は予後良好である.その中からアルコール性脂肪肝を除外したNAFLDにしても,95%の予後は良好である.しかし一応NASHが潜在している可能性は気には留めておかなくてはいけない.CTが使用できる環境であればそれを行い,もし血管が浮き出て見えたら(図8右)この時点で3人に1人がNASHである.当然のことながら,肉眼的に明らかに脂肪肝の所見を呈する場合には,CT値の計測は必要ない.私どもは喫煙者には肺がんスクリーニングとして自費での胸部CTを勧めている.その際に,肝臓の上部も撮影されるので,その折に肝臓のCT値を測定している.脾臓のCT値は通常40〜50なので,肝臓のCT値が35以下であれば脂肪肝と診断できる.

 図8左のように脾臓と肝臓でわずかにコントラストの違いがあるもの(肝臓が暗くて,脾臓が明るい)は10人に1人がNASHである.図8右のように肝臓内の血管が造影なしに見える人は,即,我々に紹介してもらっている.この所見がある場合,肝機能が正常値を示す症例を入れても3人に1人はNASHに罹患している.さらに肝機能に少しでも異常(AST,ALTが41以上)が検出されれば,50%以上の確率でNASHが発見されるためである.

(3)肝線維化マーカー

 NASHでもStage3(肝硬変の直前)になると一部症例で線維化マーカーの上昇を認め,W型コラーゲンについては6割ぐらい陽性となってくる.線維化マーカーの上昇後に治療を開始するのは,ある程度線維化が進行してからの治療と言うことになるが,専門家に紹介する契機として利用できる.現在,我々はさらに高感度の血液検査を開発したので,数年以内の実用化に向けて努力している.高知県ではNASHの疑いという病名で保険が十分通るようになっているが,今後は他府県でもNASHの疑いで各種検査が認められるように配慮されることが望ましい.頻度としては線維化マーカーは半年間隔くらいで追跡し,そのあいだに肥満が主要な原因であることの説明と食事療法および体重減量の指導を行う. 

 
8. 酸化ストレスとNASH
  
肥満になると高脂血症を生じ酸化ストレスが誘発され動脈硬化を生じ易くなる.しかし肥満は血管にのみ障害を起こすのではない.肝細胞自体にも酸化ストレスを生じてくる.そしてミトコンドリアに過酸化脂質が大量に集積して,その結果,肝細胞のミトコンドリアが非常に膨化し巨大ミトコンドリアとなり,内部に類結晶様封入体が見られようになる.このようなミトコンドリアでは機能はほとんど失われており,細胞も死んでいくしかなくなる.普通の肝炎で見られるようにウイルスに対する免疫によって肝細胞が死ぬ場合,肝細胞の破壊に伴ってAST,ALTの上昇が見られる.一方,NASHのような代謝性疾患でミトコンドリア機能が低下してアポトーシスと呼ばれる細胞死を生じる場合,マクロファージが死んだ細胞を処理し消えていくような死に方をとる.一部,マクロファージが貪食し損なった細胞が破裂するだけである.したがってAST,ALTの上昇はごく軽度に留まる.そのような場合こそNASHを疑わなければならないのである.
 
9. 治療

 日本人の摂取カロリー量は過去40年間ほとんど変化していない.しかし内容として脂質と蔗糖の摂取量が増加している.また運動不足が加わって来たため代謝症候群が増えている.これがNASH増多の原因である.したがって肥満に対応すべく食事療法と運動療法を強化するよう指導する.また130/85mmHgを少し上回った程度の軽い高血圧もNASHの危険因子であり,できる限りそれ以下になるよう積極的に指導治療をしていただきたい.

 ウイルス性肝炎では酸化ストレスが癌の発症を促進すると考えられており,その予防に瀉血が有効であるとされている.NASHの発症要因として肝細胞に対する酸化ストレスが大変重要であることは前述した.そこで我々はNASHに対しても瀉血を積極的に行っている.瀉血開始の目安であるが,フェリチン値が10ng/ml以上あれば行っている.10ng/mlは成人女性の正常値の最低値ぐらいに相当するが,それを超えていれば瀉血を行っている.200ml/回より始め,肥満男性ではすぐに400ml/回まで増量する.ここでHb値を11g/dl以下に下げないようにすることがポイントである.何故ならNASHは代謝症候群に発症する疾患で,それゆえに瀉血後の貧血により虚血性心疾患,特に狭心症発作を顕在化させてはならないからである.

 日本人の10人に1人は脂肪酸利用が遺伝的に障害されている.このような事例では,痩せから正常体重になることだけで脂肪肝からNASHを発症する場合がある.脂肪酸のβ酸化を促進する薬剤があるので,必要に応じて投与を考慮していただきたい.

10. NASHとインスリン抵抗性

 NASHの3分の2にインスリン抵抗性を合併する.ただしヘモグロビンA1cは高くないことが多い.つまり食後高血糖だけ認める人が多い.空腹時の血糖値とインスリン値を比較した場合,NASHでは血糖は正常範囲でインスリンだけ高値を示していることが多い.日本人のU型糖尿病の9割はインスリンが枯渇することによって発症するが,NASHで糖尿病の人ではインスリンは高値を示し,空腹時血糖値は比較的低値である.つまりOGTTを行った場合,早期のインスリン分泌の低下は見られるが,後期の分泌は保たれており,1時間後や2時間後はしっかりインスリンが過分泌されているという欧米人パターンを示す.そして長年にわたり欧米人並みの肥満を維持し,その過程でNASHを発症してくると考えている.

11. 最後に

図9 年齢別肥満度

 昭和55年から平成12年にかけて,図9に示すように男性では全ての年代層において肥満者が増えている.肥満者では是非とも代謝症候群を考慮していただき,わずかでも肝機能異常を認めた場合にはNASHを疑い,消化器科の医師に紹介をしていただきたい.







        <謝辞>

当院のホームページへの掲載をご許可いただきました西原利治先生に深謝いたします

(写真) 西原先生と伊藤
(2004年10月1日)