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南圭会

「不整脈治療の最近の話題」

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平成20年6月10日(火)

中京病院循環器科部長  坪井直哉先生 
  不整脈は日常診療で非常に多く遭遇する症候である。しかし、多くの不整脈は致死的となることは少なく、このような不整脈では症状が軽微であれば治療対象とはならない。そうはいっても、症状が非常に強く生活の質を極端に低下させる場合は治療する必要がある。そこで、不整脈治療の目的は症状の改善及び生命予後の改善ということになる。
 従来不整脈治療は薬物治療が主体であり、主としてNaチャネルを阻害するI群抗不整脈薬が用いられてきた。しかし、1991年に発表されたCAST studyで、I群抗不整脈薬が虚血性心疾患の予後を逆に悪化させることが示されて以来、致死性不整脈に対するI群抗不整脈の役割は限定的となってきた(図)。すなわち、虚血性心疾患や拡張型心筋症などの器質的心疾患に合併する心室性不整脈に対しては、ソタロールやアミオダロンといったV群抗不整脈薬、さらに植込み型除細動器による治療が主体となってきた。
致死的不整脈はこのような器質的心疾患を有しない症例でもみられることがあり、心電図のV1,V2誘導でST上昇を示すBrugada症候群では心室細動が失神や突然死の原因となることが示されている。
一方、高齢化社会を迎えるにあたり、不整脈治療の対象として心房細動が注目されている。心房細動は年齢とともに頻度が増加すること、塞栓症、心不全の原因として生活の質や生命予後を悪化させることから、その予防、治療の重要性が指摘されている。心房細動治療の目的は塞栓症の予防、心不全の予防、生活の質の改善と考えられる。
 心房細動における塞栓症の発生には危険因子があり、CHADS2 scoreといわれる塞栓症の危険因子の点数化の有用性が提唱されている。CHADS2 score(C:congestive heart failure, H: hypertension, A: age>75, D: diabetes, S: strokeでC,H,A,Dは各1点、Sの Strokeについては2点と数える)が高ければ高いほど塞栓症の発生が多いことが示されている。塞栓症の予防には現在のところワーファリンによる抗凝固療法が最も有効とされる。ワーファリンにより血液の凝固する時間を正常の約2倍にすることにより大幅な塞栓予防効果をうることができる。
 2002年に米国で発表されたAFFIRM studyでは、心房細動の治療において洞調律を維持することを目的とするリズムコントロールと、心房細動のまま心拍数を増やさないことを目的とするレートコントロールのどちらがよいかということが検討された。その結果、リズムコントロールはレートコントロールに勝ることはなく、心房細動治療は、ワーファリンによる抗凝固療法を伴うレートコントロールで十分であるとう結果となった。しかし、この研究では、若年者が含まれていない(平均年齢70歳)、死亡率が高い、洞調律が維持された患者の予後は良好、洞調律となると4-12週後に抗凝固療法が中断された、心不全が少ない、リズムコントロール群ではアミオダロン、ソタロールの使用率がそれぞれ62.8% 41.4%と抗不整脈薬の使用状況が日本と異なるなどの問題が指摘されており、この結果をそのまま日本における心房細動治療の指針としてとりいれてよいのか、という疑問がある。
 日本で行われたJ-rhythm試験においても発作性と持続性心房細動について、それぞれ、リズム治療とレート治療の有用性が検証された。死亡、塞栓、心不全というハードエンドポイントでは両治療群間で有意な差は認められなかった。発作性心房細動では「被験者の基本的治療法に対する認容性」というソフト・エンドポイントはリズム治療群で少なかった。これらの結果から、発作性AFには患者さんのQOL重視の観点からリズム治療が推奨された。
さらに、近年心房細動の治療のupstream治療が注目されている。高血圧治療におけるアンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬さらには、抗高脂血症薬であるスタチンが心房細動の発生を抑制することが示されている。その機序はまだすべてが明らかではないが、レニンアンギオテンシン系の亢進による心房筋の線維化が抑制されることやスタチンの抗炎症作用が働いていることなどが提唱されている。
また、2006年の米国の心房細動治療のガイドラインでは薬物治療に抵抗性の心房細動に対してカテーテルアブレーション治療が推奨されていることも、最近の心房細動治療の流れとして注目される。