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南圭会

「メタボリックシンドロームの病態と治療」

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平成20年5月13日(火)

名古屋市立大学大学院消化器・代謝内科学 
岡山直司 先生
 メタボリックシンドロームとは、生活習慣病である肥満、高血圧、脂質異常症(高中性脂肪血症あるいは低HDLコレステロール血症)、耐糖能異常が複数合併する疾患であり、1999年WHOにより世界で最初に提唱されました。その後2001年に米国で、また日本では2005年4月にその定義が発表されおります。欧米と日本における本疾患の定義の大きな相違点は、欧米はすべての症候を並列に扱っているか、あるいは耐糖能異常を基盤としているのに対し、日本では内臓肥満を基盤としていることです。このことは、日本ではメタボリックシンドロームの病態の根底に内臓脂肪の蓄積が深く関わっていると考えられているからであると思われます。
 脂肪細胞は、エネルギーの貯蔵庫の役割のみでなく、近年様々な生理活性物質、いわゆるアディポサイトカインを分泌することがわかってきました。その中でも重要な物質がアディポネクチンです。この物質はインスリン抵抗性改善作用、動脈硬化予防作用を有し、肥満者ではその分泌が低下します。またレプチンも重要でして、発見された当初は食欲の減退やエネルギー消費の増大を促すとされておりましたが、その後の研究で高血圧や動脈硬化を助長し、肥満者では分泌が亢進することが明らかとなってきました。我々の基礎的研究におきましても、当物質は、動脈硬化の初期段階である血管内皮細胞の接着分子発現亢進を介して白血球接着を増加させ、動脈硬化促進的に作用すると考えております。メタボリックシンドロームは、内臓肥満とそれに伴うアディポサイトカインの分泌異常が根底にあり、その結果、高血圧、脂質異常症、耐糖能異常を経て、動脈硬化に起因する心・血管イベントを発症させる疾患であると考えられます。
 日本におけるメタボリックシンドロームおよびその予備軍の発症頻度は、2004年の厚生労働省の調査によりますと、40〜74歳の男性の2人に1人、女性の5人に1人と非常に高頻度でありまして、2008年4月からはその抑制を目的に本疾患を対象とした特定健診が開始されております。
 次にメタボリックシンドロームの治療についてですが、その根底は内蔵肥満ですので最も重要な治療法は肥満の解消であります。そのためには食事療法、運動療法が基本となりますが、本講演では、メタボリックシンドロームの各症候に対する薬物療法についてお話ししました。本疾患は様々な病態が合併しておりますので、その薬物療法の基本は多面的作用を持つ薬剤の選択であると考えております。
 まず高血圧に対する薬剤の選択でありますが、多面的作用を有し、かつエビデンスが豊富なものとして最初に挙げられるものはアンギオテンシンU受容体拮抗薬であります。本薬剤は、糖尿病腎症の予防の他、インスリン抵抗性の改善、脂質代謝の改善作用等があり、かつACE阻害薬のような咳等の副作用も少なく、本疾患には最も適した薬剤と思われます。また我々の血管内皮と白血球を用いた基礎的研究では、本薬剤は直接的な抗動脈硬化作用があることが証明されておりますし、臨床的検討におきましても、PPAR-γ刺激作用を有するミカルディスがHbA1c値、中性脂肪値を有意に低下させております。
 次に経口糖尿病薬の選択についてですが、我々の基礎的研究ではグリミクロン、アクトス、キネダックに直接的な抗動脈硬化作用が認められましたが、グリベンクラミド、トログリタゾン、メトフォルミン、ナテグリニド、グリメピリドには見られませんでした。グリミクロン、キネダックにつきましては糖尿病合併症の予防効果も報告されておりますし、アクトスはアディポネクチンの増加効果も有するとされております。
 最後に抗高脂血症薬の選択についてですが、私が以前に行いましたアンケート調査では、高LDLコレステロール血症と高中性脂肪血症が合併した場合はスタチン系薬剤が最も使用されておりました。また我々の基礎的検討や文献的検討からスタチン系薬剤は抗動脈硬化作用の他、血管平滑筋の増殖抑制、血小板凝固抑制等様々な多面的効果があり、高LDLコレステロール血症が存在する場合には、本薬剤がメタボリックシンドロームのファーストチョイスでよいと思われます。一部のスタチン系薬剤は高血糖を助長するとされておりましたが、我々の臨床的、文献的検討ではいずれの薬剤もそのような傾向は見られませんでした。しかし、リピトールは肥満者に、リバロは非肥満者において高血糖になる傾向があり、これらの薬剤の使用にはこの点を考慮して頂くとよいかと思われます。一方、フィブラート系薬剤は、中性脂肪低下作用の他、HDLコレステロール上昇作用、さらには血糖値の低下、アディポネクチン上昇、レプチン低下作用等が報告されており、メタボリックシンドロームの脂質異常症における薬物的治療におきましては無視できない薬剤と考えられます。また近年コレステロール吸収抑制剤であるゼチーアが登場し、本薬剤とフィブラート系薬剤との併用は高LDLコレステロール血症を伴ったメタボリックシンドロームの治療に最も適しているのではないかと思っております。
 以上、メタボリックシンドロームの病態と薬物療法を中心とした治療につきまして、我々のデータや文献的考察を交えまして概説させて頂きました。本稿が先生方の今後のご診療の一助になれば幸いと思っております。