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南圭会

「最近の上気道感染症の現況と治療戦略」

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平成19年2月14日(水)

藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院耳鼻咽喉科学教室 教授
鈴木賢二 先生
 はじめに
本稿では急性中耳炎,急性副鼻腔炎,急性扁桃炎などの主要な上気道感染症を取り上げ,日本耳鼻咽喉科感染症研究会が行った第3回全国サーベイランス1)の結果を参考として,疾患分離菌頻度と主要分離菌の薬剤耐性そして治療戦略につき述べた.

1.急性中耳炎

 急性中耳炎は先行するウイルス感染に引き続く経耳管細菌感染により惹起される.

 検出菌は図1に示すように肺炎球菌,インフルエンザ菌が主体となり,モラクセラカタラーリス,A群β溶連菌,黄色ブドウ球菌も重要である. 肺炎球菌の検出率は非穿孔例や幼小児で高く,近年急増し市中感染菌として問題となっている薬剤耐性肺炎球菌(DRSP: Drug resistant S. pneumoniae)の割合は特に小児の急性中耳炎で高い.インフルエンザ菌ではβーラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)は47%に増加している.カタラーリス菌のβーラクタマーゼ産生株は94%を占め,間接起炎菌として重要な菌である. MRSAは5歳以下の小児で検出率が高く,乳幼児あるいは老人で緑膿菌が原因となることもある.

 Littleら2)は抗菌薬の投与時期についてのランダム化比較試験成績から,抗菌薬は直ぐ使用しないほうがよいと結論している.起炎菌量を減少し中耳を早く正常化するために鼓膜切開も併用する.肺炎球菌(表1)やインフルエンザ菌(表2)が主なターゲットとなるので,これらに有効な抗菌薬を選択する.間接起炎菌としてモラクセラカタラーリス(表3)の存在も考慮する.耐性菌増加抑制を考えペニシリン系薬を選択する.またDRSPあるいはBLNARでは多くのセフェム系やマクロライド系には耐性株がみられるため使用は控え,現時点ではアモキシシリン合剤あるいはセフジトレンの増量使用または成人ではトスフロキサシン等のフルオロキノロン薬(現時点では使用は成人に限定)で1週間前後かけ確実に除菌する.また重症例には注射用ペニシリン,セフェム,カルバペネム系薬を用い強力に治療を行い,手術治療を必要とすることもある.

 またセフメノキシムなどの抗菌点耳薬の局所投与も漫然とした長期間使用を避ければ極めて安全な治療法であり有用性も高い.

2.急性副鼻腔炎

 膿性鼻汁,後鼻漏,鼻閉などが主たる臨床症状である.

 検出菌は図2に示すように急性中耳炎と類似しており,特に歯因性のものでは嫌気性菌類にも注意が必要である.よって選択薬も急性中耳炎と同様である.乳幼児の上顎骨炎,眼窩内合併症,頭蓋内合併症などの重篤なものには注射剤にて強力に治療を行う.また炎症の早期鎮静のために上顎洞穿刺・洗浄,洞内薬剤注入,プレッツ置換法,ネブライザー療法などの局所療法も積極的に行う.特にネブライザー用薬であるセフメノキシムは現時点において,DRSP,BLNARいずれに対しても良好な最小発育阻止濃度を維持しており有用性は高い.

3.急性扁桃炎

 小児期に最も多い疾患であり,悪寒・発熱・咽頭痛・嚥下痛を主訴とする.ウイルス感染が主体の扁桃炎が多いと考えられるが,A群β溶連菌を中心とする細菌感染による急性扁桃炎もあり,抗菌薬治療の対象となる.

 急性扁桃炎では図3に示したように連鎖球菌群,A群β溶連菌,黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌を中心とする細菌感染が主体となりインフルエンザ菌などのグラム陰性菌も起炎菌として検出される.検出菌の半数を占める連鎖球菌群は大半が常在菌であり,ウイルス感染を見ている可能性がある.

 第1選択薬としてペニシリン系あるいはセフェム系の薬剤があげられる.第2選択薬剤としてはクラリス等のマクロライド薬,ミノサイクリンも有用であり,成人ではニューキノロン薬なども有用性は高いと言えよう. EBウィルスを原因とする伝染性単核球症では通常の抗菌剤には反応しないので対症療法を選択する.また年齢が3−4歳以上で扁桃炎を年に3回以上繰り返すもの,扁桃病巣感染症,高度の扁桃肥大などに対しては,扁桃摘出術を選択する.

参考文献

1) 西村忠郎,鈴木賢二,馬場駿吉,他:第3回耳鼻咽喉科領域感染症臨床分離菌全国サーベイランス結果報告. 日耳鼻感染誌 22:12-23,2004.
2) Little P, Gould C, Williamson I et al: Pragmatic randomized controlled trial of two prescribing strategies for childhood acute otitis media. JMB 322: 336-42,2001.
3) 鈴木賢二,宮本直哉,馬場駿吉,他:慢性副鼻腔炎の臨床細菌学ー最近の動向ー.耳展38:3:258-262,1995.