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突発した胸痛の鑑別診断と対応

中部ろうさい病院 救急部・一般内科部長  
丸井伸行 先生
救急外来や初診外来へは胸痛や胸部不快を訴える方が受診されます。一見して重症とわかる症例はただちに診断と治療方針が決定されなければなりません。これに対して一見重症と思えないが‘気になる’症例も少なからずあります。抄録においては心筋梗塞の症状に焦点をあてて解説します。

プライマリケアにおける胸痛の原因は60%非器質的疾患(消化器系、循環器系、呼吸器系でない)とされます。
(ア)筋骨格系36 %
(イ)消化管系19 %
(ウ)循環器系*16 %     (*心疾患は50歳以上では50%    J Fam Pract 1994,38:345)
@ 安定狭心症 10.5%
A 不安定狭心症・心筋梗塞 1.5%
B その他 3.8%
(エ) 精神疾患 8 %
(オ) 肺疾患 5 %
(カ) その他・不明 16 %
これらの中で心筋梗塞・不安定狭心症による胸部症状の頻度は少ないですが、見逃せない重篤な疾患の代表例と言えます。
(ア) 心筋梗塞の診断
@ 胸部症状
1. 部位: 虚血性の痛みは比較的広い範囲に訴える事が多い。  
2. 性質:「痛み」として訴える事は少ない。「術ない(ずつない)」。
3. 程度: 症状の程度が軽く、理解されないために患者が訴えないことが1/3程度あり、症状の程度を10段階(x/10)で尋ねると消長を確認しやすい。
4. 頻度、持続時間:軽度の症状でも不安定化しているかの判断が重要。
5. 状況: どのような時に発症するか。食事中なら消化管、食後なら消化管も心臓もありえる。
6. 症状を緩和もしくは悪化する因子:ニトログリセリンは頼りにならないという報告あり
7. 随伴症状:上肢への放散痛:右腕さらに両上腕への放散痛はLR高い。冷汗。「労作時呼吸苦」 (anginal equivalent) 胸痛の有無にかかわらず非常に重要、警告症状である (NEJM 2005;353:1889)
A 心電図変化
急性心筋梗塞でも1-4% の心電図は正常である。プライマリケアレベルでは、正常心電図と診断した胸痛患者の20% は不安定狭心症であり、不安定狭心症と診断された症例の1/3 は正常心電図であった。(Br Heart J 1992;67:53)
B 急性心筋梗塞診療のピットフォール
1. 比較的広い範囲に鋭い痛みではなく軽い症状を訴えることがある
2. 超急性期の心電図は判読が困難な事がある
3. 血液検査は陰性でも心筋梗塞は否定できない
4. 診断の上で留意する点は
@ 急に(突然ではない)発症した胸痛・胸部不快感
A 発症前に特に労作時に数分間の症状を自覚していた場合は、不安定狭心症の時期を意味する
B 数秒や数日を超える痛みは機能的痛みの可能性が高い
(イ) 不安定狭心症
1. 診断の原則は病歴である。
2. 未治療の場合、10-20%が心筋梗塞を発症する。
3. 内科的治療で5-7%にリスクを軽減できる。
このような点に注意を払って、病歴を聴取してもなかには全く症状のない症例があります。
症例:63歳 男性 運動負荷陽性
現病歴:約10年前に他院で心筋梗塞と診断されているが詳細不明。脳梗塞に罹患し当院神経内科通院中に紹介受診。日常生活は問題なく20000歩 歩行も可能。トレッドミル運動負荷検査で陽性となり心臓カテーテル検査をすすめるも拒否され、かわりに冠動脈CTを施行した。危険因子:耐糖能異常、高血圧、高脂血症、喫煙
このようにリスクが高く、検査陽性の方でも症状がなければ侵襲的な検査を望まない方が多いのが実情です。そういった方には冠動脈CTは非常に有効なツールです。

病変部冠動脈CT(左冠動脈回旋枝起始部の石灰化とプラークを伴う狭窄が観察できる)

冠動脈CTの有用性は以下の点があげられます。
1. 利点
(ア) 非侵襲的検査である
(イ) 約10秒間の息止めで撮像できる
(ウ) 非定型的症状のスクリーニングにすぐれる
(エ) 造影剤使用量も50-(100)mlまでで撮像可能
(オ) NPVが高い(冠動脈CTで陰性と判定されれば冠動脈有意狭窄はほぼ否定しうる)
(カ) 慢性閉塞病変の遠位の観察が可能
(キ) 冠動脈バイパスの観察が容易
(ク) 冠動脈プラークの観察は心カテで得られない情報が得られる
2. 欠点
(ア) 被爆:心カテと同程度
(イ) 石灰化病変、ステント留置部の描出は困難
以上の点を理解いただき診断の補助に活用下さい。

中部 ろうさい 病院 循環器科 丸井伸行
ろうさいハートホットライン(0120-099-631)