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南圭会

「一般的な皮膚潰瘍患者の治療指針」

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平成19年11月13日(火)

 名古屋市立大学大学院医学研究科 加齢・環境皮膚科学 准教授 山口裕史先生
 創傷は緻密に計算された動力学的な機序で治癒し、創傷治癒に関わる細胞成分は様々であり、各種細胞からの分泌物(サイトカインや成長因子)が多様な情報網形成の担い手となる。創傷治癒過程の炎症期には、血小板成分やマクロファージを含めた白血球成分は止血や感染防御に作用する。増殖期には真皮線維芽細胞や筋線維芽細胞は創収縮に働き、血管内皮細胞の増殖や伸展に伴う新生血管と共に肉芽組織形成に作用する。毛包の外毛根鞘細胞を含む表皮細胞は上皮化に作用し、神経ペプチドによる表皮細胞増殖・遊走能の促進効果も報告されている。このような正常な創傷治癒過程のどこかに遷延を来たしたものが難治性潰瘍である。

 先ずは、熱傷・外傷、褥瘡や放射線潰瘍といった外因性のものが挙げられるが、広範囲のものは創収縮及び辺縁からの上皮化が遷延し皮弁術や植皮術の適応になることも多い。創周囲に高度炎症反応があれば、消毒液や軟膏による接触皮膚炎を見逃さないよう配慮が必要となる。

 創部への血液供給が乏しく新生血管形成が傷害される動脈性・虚血性潰瘍に対しては侵襲性の高い血行再建術から交感神経ブロック及び各種外用薬・内服薬に至るまで幅広く治療が行われているが、切断に至る危険性が極めて高い潰瘍である。

 高度浮腫を伴う静脈性・リンパ性潰瘍は圧迫包帯・弾性ストッキング使用の励行及び患肢挙上・長時間立ち続けないなどの生活指導も重要である。痛覚に乏しい患者に対しては皮膚の状態を確認する習慣を身に付けるよう指導することは必須である。

 また難治性潰瘍の中には腫瘍及び感染症が成因のものも多く、疑わしい所見が少しでもあれば生検及び培養検査をすべきである。壊疽性膿皮症を疑う場合は生検・合併症検索を行う。

創局所血流量を改善する工夫
骨髄細胞はマクロファージ、骨、軟骨、筋及び脂肪細胞へ分化し多分化能を有するが、血管内皮細胞に分化することが近年報告された。そこで考えられることが、骨露出した創部では皮骨を除去し海綿骨を暴露させ骨髄細胞を直接創部に供給する治療法である。血液中の骨髄由来細胞よりはるかに収率が良い筈である。骨髄から供給される多分化能を有する細胞が消毒液や過度の洗滌により消失するのを避け、閉鎖ドレッシング材にて創部に留める治療は創傷治癒機序の概念からすれば理想的な治療となる筈である。筆者の治療は中枢側からの血行再生を望む治療ではなく、末梢側からの側副血行路を逆行性に再生させるような治療である。即ち、皮骨(腐骨)で閉じ込められていた多分化能をもつ骨髄細胞を創部に露出させることで創局所自体の血管網を整備させ少しでも多くの血流を創部に供給できるように中枢側へ向かう側副血行路を増やすことがこの治療法の狙いである。
部位特異的な皮膚再生への試み
掌蹠(手掌足底)皮膚潰瘍に対する治療としてそれ以外の皮膚を用いて植皮や皮弁を選択した場合、糜爛や潰瘍の再発が非常に多くなる。掌蹠は機械的刺激に強いという部位特異性を持つが、従来の方法では掌蹠以外の採皮部の特性が残存するためである。即ち部位特異的な組織再生を促す(解剖学的な意味で損傷を受けた部位がその体の部位に相応しい機能と整容とを兼ね備えた組織へ再生させる)ことが理想的な究極の治療法である。真皮成分が表皮の部位特異性をある程度誘導できることを報告してきた。詳細は、PubMedにて「Yamaguchi-Y AND (Morita-A OR Katayama-I OR Hearing-VJ OR Itami-S OR Yoshikawa-K OR Hosokawa-K OR Yamada-G OR Falanga-V NOT Kamada-T)」のキーワードにて参照されたい。
吸引水疱蓋移植の有用性
吸引水疱蓋移植の最大の利点は採皮部の傷が瘢痕化しないことである。表皮移植一般に言えることではあるが、移植片の体積が少ないため生着しやすいと考えられ、血流を直接介することなく生着できることも利点である。手術時間も水疱形成のための時間を除けば非常に短くて済み、処置室で十分対処可能である。手術に抵抗感のある患者も「やや大掛かりな処置」程度に受け取ることが多く、実際に侵襲も少ない(従来の外科的治療と保存的治療の中間的存在)と考えられる。今後この治療法が植皮術の主流となることを期待している。
まとめ
以上のような骨髄細胞の可塑性と閉鎖療法との組み合わせに、真皮-表皮相互作用を利用した成分ごとでの創傷治癒を促進させる発想を元に表皮移植を更に組み合わせた治療法を開発した。実際に難治性潰瘍に応用して良好な結果を得ている。