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「疼痛性障害について」

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平成18年2月28日(火)

愛知医科大学 総合診療科・精神神経科 山口 力 先生

【疼痛性障害という分類】

 疼痛性障害(Pain Disorders )というカテゴリーはDSM-W-TR 2000(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision)においては、身体表現性障害の下位分類にまとめられている。ICD-10 1992(International Classification of Disease)では、持続性身体表現性疼痛障害にカテゴライズされており、一部、統合失調症の下位分類に相当するものも含む。またDSM-W-TRでいう疼痛性障害とは、身体表現性障害のうちで、とくに疼痛を中心症状とするもので,その発症,悪化,または持続に心理的要因が重要な役割を果たしていると判断されるものを指す。

 一般に身体表現性障害を理解するためには、Hysteria研究の歴史を知っておくことが有用である。神経内科医Charcot, J.M. や精神科医Freud, S. 、Bleuler,E.、Janet, P. はその先駆者であり、Hysteriaの病態を理解することが深みのある疼痛性障害の患者像を十分に理解しようとするのには役立つ。たとえば、「身」の角度から迫れば転換症状と解せ、「意識」の角度から迫れば解離症状とも解せるHysteria患者の中で、本人の苦悩をとくに疼痛症状に置き換えることにより納まり易いのが、疼痛性障害患者であるとも理解できるわけである。

 但し、疼痛性障害には“心理的要因と一般身体疾患の両方に関連した疼痛性障害”も含まれており、“心理的要因と関連した疼痛性障害”のみではないので注意が必要である。つまり、心理要因と一般身体疾患の両方が、疼痛の発生、重症度、悪化、または持続に重要な役割を果たしていると判断される場合にも用いられるわけであり、器質的あるいは機能的な身体疾患に心理的要因が大きく関わり疼痛を修飾、増強している場合である。帯状疱疹後の遺残疼痛やCRPSの疼痛などで心理的要因が大きく関わり疼痛を修飾、増強している場合がこれに該当する。

【疼痛性障害の特徴】

(患者像)
1.睡眠パターンが障害される。 2.うつ状態になる。 3.仕事に支障をきたす。 4.性生活に支障をきだす。 5.レジヤ−や余暇活動を行わない。 6.訴訟、補償問題か絡んでいる。
(医療者側からみると)
1)自然科学的な評価が困難であり、病変が見出しにくい。
2)多愁訴、多くの随伴症状を有し、QOLが低下している。
3)病態はバラエティに富む。病態には個別性があり、複雑である。
4)局所痛ではなく、全人的な苦痛である。(図1)
5)従来の急性疼痛の方法では軽快しない。
6)治療が長引く。
7)生体機能が低下しており、急性疼痛の治療法を用いると、副作用が出やすい。
8)根深い医療不信を有している。
9)「扱いにくい患者」となり、ドクターショッピングを繰り返す。

【疼痛性障害の治療】

 痛みとは情動体験であり、とくに慢性疼痛の場合には、生理的因子とともに、心理的、行動的、社会的な因子、さらに神経ホルモン、化学的因子の合成により痛みの集合体が生じている考えるべきである。 慢性疼痛が器質性か心因性かの二つに区別することは無意味であるともいわれる。治療の要点として、治療者がまず苦悩に共感する姿勢で患者物語りを聴き、患者の痛みを受容したなかで“ムンテラすること”から癒しとしての治療が始まる。また痛み中心の生活や人生から、症状に囚われない生活を促し、痛みに対する認知や態度の変容を促すことが肝要である。つまり、慢性痛サイクル(図2)からの脱却を促すわけである。その上で、薬物療法では末梢受容器における痛覚抑制に効果のあるNSAIDsではなく、中枢神経系における痛覚抑制効果のある向精神薬、なかでもSSRIなどの抗うつ剤の投与やスルピリドまたは新世代の抗精神病薬少量投与が効果的である。