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南圭会

日常診療における血管外科疾患(診断と治療の要点)

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平成18年9月13日(水)

社会保険中京病院 外科 部長     澤崎直規 先生

閉塞性動脈硬化症(ASO)

好発年齢は,60歳代,70歳代ですが,糖尿病合併例では50歳代からみられ,4~8:1と男性に多い疾患です.症状は“足部の冷感”,“間欠性跛行”,“安静時痛”,“潰瘍・壊死”と進行します.診断の際,糖尿病・高血圧症・高脂血症・喫煙などの動脈硬化の背景を持つこと,足部の皮膚温が冷たく足背動脈が触れない(弱い)こと,色調の変化があること,間欠性跛行では主にふくらはぎが痛くなること,安静時痛では血流が最も乏しくなる足部や足趾が痛み,血圧が下がる夜間に増強することなどがポイントとなります.通常両下肢が同時に悪くなることは少ないので,左右差を見ることが重要です.潰瘍,壊死は,靴擦れや魚の目,深爪などから悪化するものも多く,これらが難治性の場合にはASOの存在を疑う必要があります.最近では,下肢上肢血圧比(ABI)の測定が普及しており,低下があれば診断はほぼ確定できます(図1).治療は,生活指導(禁煙,保温,足の清潔),運動療法(側副血行発達の目的),薬物療法,血管内治療,バイパスなどの手術的治療に分けられ,患者の希望,病変の程度,ライフスタイル,全身状態,年齢などを考慮し決定します.最近では低侵襲に行いうる血管内治療(PTA+ステント留置)の適応が拡大してきています.

腹部大動脈瘤

好発年齢はやはり60歳代,70歳代で,6~8:1と男性に多い疾患です.腹部大動脈の場合3cm以上の拡大があれば動脈瘤と診断します.未破裂の動脈瘤は無症状であり,触診のみでは半数は見落とされるというデータもあります.ただしエコーを行えば診断は容易であり,高血圧,高脂血症などの動脈硬化のリスクファクターを持つ患者さんでは一度はチェックしておくとよいと思われます.瘤の大きさと5年以内の破裂危険率は,4cmで10%,5cmで20%,6cmで30%,7cm以上では50%以上といわれ,4cm以上を手術適応としています.治療は,全身的リスクがなければ人工血管による置換術が行われ,手術死亡率は2〜3%と報告されています.低侵襲治療としてステントグラフトとよばれる血管内治療も可能となってきていますが,確実性の点から,現時点ではまだ適応は限られています.

下肢静脈瘤

30歳代より急増し年齢とともに増加します.女性に圧倒的に多く,立ち仕事(美容師,調理師,店員)従事者に多く見られます.症状は無症状から,むくみ,だるさ,重さ,こむら返り,湿疹,色素沈着,皮膚潰瘍,血栓性静脈炎などがあり,皮膚症状を伴うものは手術治療をお勧めします.血栓性静脈炎を併発しなければ静脈瘤だけで肺塞栓症の原因となることは稀と言われています.診断は,視診・触診で静脈の怒張や色素沈着の有無を確認します.治療は,生活指導(長時間の起立・座位・肥満・体を締め付ける衣服を避ける,下肢挙上,歩行の奨励など),弾性ストッキングの着用(圧迫圧30mmHg台のハイソックスタイプを多用),硬化療法,静脈抜去術などを行います.局所に硬化剤を注射し血管をつぶす硬化療法は外来で行う治療で,逆流を止めるための局所麻酔での伏在静脈の高位結紮術と組み合わせて行うと再発が少なくなります.伏在静脈抜去術は最も根治的な方法で,現在は3〜4日の入院で行っています.

下肢深部静脈血栓症

エコノミークラス症候群と関連して話題になることも多く,食生活の欧米化,肥満人口の増加,高齢化社会の到来を背景に増加傾向にあると言われています.男女比は1:1.7と女性に多く,発生のピークは60歳代から70歳代と言われます.原因は,血流うっ滞,静脈内皮損傷,血液凝固能亢進とされ,長期臥床,肥満,長時間の立ち仕事や座位,下肢麻痺,うっ血性心不全,外傷,手術,カテーテル挿入,静脈炎,悪性腫瘍,脱水,経口避妊薬,周産期,多血症,喫煙,後天的・先天的血栓性素因などが上げられます.診断は,下肢の腫脹,痛み,圧痛,色調変化に注意することが重要で,典型例ではふくらはぎや下肢全体が緊満し,押さえると痛みがあり,立位で両下肢を比較すると患肢で静脈うっ滞による暗赤色調の色調変化が認められます.急激発症,通常片側性,発熱がないことも診断の助けとなります.採血ではフィブリン分解産物である“Dダイマー”が有用で,正常値であればDVTは否定的です.血管外科外来では,エコーを用いて診断します.治療で最も重要なことは肺塞栓症を併発しないことであり,発症早期は基本的に入院治療の適応となります.ヘパリンによる抗凝固療法やウロキナーゼなどによる血栓溶解療法を行いながら,ベット上で下肢挙上し数日間絶対安静とします.安静解除後は腫脹の早期改善,重症化予防,再発予防のためにワーファリン内服を継続しながら弾力ストッキング着用下に積極的に歩行を行います.