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南圭会

「身体表現性障害と心身症は同じかな?」

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平成18年2月17日(金)

愛知医科大学看護学部 病態治療学 教授 金子 宏 先生

 「うつ病」がプライマリケアの実践家である実地医家で診断され,SSRI(パロキセチンなど)が処方されるようになってきた.しかし,職場への診断書提出が必要な場合には,精神科を除く実地医家の多くは診断名に「うつ病」とは記載せず,「心身症」「自律神経失調症」「心因反応」と記載するのが現状であろう.心身症の定義(日本心身医学会1991年)をみると,うつ病などの精神疾患を除くと書いてある.一方,様々な身体症状を訴えるにも関わらず明かな病名(身体・精神疾患名)が付けられない場合,「自律神経失調症,不定愁訴症,不安神経症」など,どちらかというと精神疾患に近い病名をつけ,実際に抗不安薬,抗うつ薬,睡眠薬などが処方されてきた.このような状態に対しては,DPCの流れも加勢して,「身体表現性障害」という概念で捉える必要性が高まり,昨年の日本医師会雑誌でも特集号が組まれた(日本医師会雑誌,平成17年5月号,第134巻,第2号).

 「心身症」「身体表現性障害」は共に疾患名ではなく、付帯条件のようなものである.高血圧の患者が,せっかちな性格,あるいは家庭でのストレスによって血圧のコントロールがうまくいかない場合は「高血圧症(心身症)」として治療する.すなわち,血圧という目にみえる指標が心理・社会的要因と関連していることに「気づき」を促し,場合によっては向精神薬を使用してストレスを軽減させ降圧効果を高めることが目標となる.一方、「身体表現性障害」の特徴として,@一般身体疾患を示唆する身体症状が存在するが,一般身体疾患,物質の直接的作用,または他の精神疾患によって完全に説明されない.Aその症状は臨床的には著しい苦痛,または社会的,職業的,または他の領域における機能の障害を引き起こす.B身体症状は意図的でない.があげられる.

 実際には患者のなかなか改善しない「訴え」が存在し,様々な検査をしてもそれを説明できる異常もなく,薬剤もあまり効果を示さないことが一般的である.困った患者というイメージをもつ一群と重なる.その中には慢性の痛みを訴える「疼痛性障害」,ヒステリーに近い「転換性障害」,こだわりのつよい「心気症」などが含まれる.多少の飛躍を許していただくと,その「訴え」を持ち続けることでなんとかやっていける患者ともいえる.したがって治療目標はいかにその「訴え」を治療者が認め,患者のQOLを高めるかということになる.そのためには,@主治医は変わらない.A治療時間を設定する.B根拠のない検査はしない.C向精神薬は少量から開始して処方種類は最低限とし,患者の要求で増量しない.D連携できる精神科と一緒に診療する.などがコツといえる.落とし穴として,「心身症」にしても「身体表現性障害」にしても「統合失調症」などの精神疾患,あるいは慢性疼痛が後に「進行膵癌」と診断される場合もあるので,上手に精神科への受診を促すことと,器質的疾患の除外を常識的な間隔で実施することも忘れてはならない.

 平成18年2月17日の研修会当日には,原因不明の腹痛を訴えた女性の事例を提示し,参加された実地医家から様々な意見がだされた.その患者の家庭環境への配慮,仕事につくことで気晴らしとなるのではという貴重な提案が聞かれた.身体表現性障害の治療では,そのような「環境調整」が大切であり,それをまさに実践されている実地医家の皆さんと事例を通した研修の場となり,私にとっても勉強となった.プライマリケアでの実践がさらに構造化されるように大学人として尽力したいと痛感した時間でもあった.