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南圭会

「機能性ディスペプシア(functional dyspepsia)へのアプローチ」

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平成18年7月12日(水)

藤田保健衛生大学 坂文種報徳會病院 内科(心療内科) 教授
金子 宏 先生
 慢性の上腹部愁訴(dyspepsia)があるにもかかわらず、その症状を説明できる器質的疾患・代謝性疾患が見つからない場合、消化管の機能異常である点を重視して機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)、あるいは「機能性胃腸症」と呼ばれるようになってきた。その高い頻度、QOLへの影響、病態理解の進歩、消化管運動改善薬の登場、慢性胃炎の包括医療を考慮した再編の動きなどがFDをクローズアップさせる背景といえる。FDの病態には消化管運動異常、消化管知覚過敏、胃底部適応性弛緩障害という機能異常が関与していることが明らかである。また、その機能異常を脳で不快な経験として知覚(認知)し、その反応がさらに消化管機能異常を悪化、慢性化するという脳−腸相関(悪循環)の関与が注目されている。さらに、心配性とか社会的なストレス、すなわち心理社会的な影響が症状を修飾することになる。 

 FDの世界的教科書ともいえるRome基準が2006年4月に改定されRome IIIとして米国消化器病学会雑誌(Gastroenterology)で公表された。冊子としては8月に発刊されるようである。FDの概念に大きな変更はないが、診断基準におけるディスペプシア症状がRome II以降の臨床研究の結果を踏まえて4つと簡略化された。すなわち、煩わしい食後膨満感(bothersome postprandial fullness)、早期飽満感(early satiation)、心窩部痛(epigastric pain)、心窩部灼熱感(epigastric burning)であり、そのうち一症状以上が慢性的(厳密には3ヶ月以上)みられ、かつ器質的疾患が除外された場合にFDと診断される。GPを中心とした医療者が診療に際してさらに活用しやすい配慮となっている。

 治療としては「機能的な病気もあること」を十分説明することと消化管運動改善薬(ガスモチンRなど)の投与が第一段階である。2006年4月にFDに対するガスモチンRと粘膜保護薬として胃炎でよく使用されているテプレノンとの大規模比較試験(JMMS)の結果が公表された。それによると2週間の投与によってガスモチンRが胃もたれ感のみならず、胃の痛みにもテプレノンよりも有意に有効であること、患者の満足度が高いことが示され、第一選択薬とするevidenceがえられた。もし、2〜4週間消化管運動改善薬を使用しても改善がみられない場合は内視鏡を含む精密検査が勧められる。その際、H2ブロッカーを試す価値もある。難治性の場合は使い慣れた抗うつ薬等を4週間程度使用して反応をみることが実践的であろう。

 海外でのFD治療に関して医療経済学的視点から55歳未満で警告徴候(貧血、体重減少、血便等)がない場合はピロリ菌の検査をして、陽性の場合は除菌を、陰性の場合はプロトンポンプ阻害薬の使用をするのが合理的であると勧告された(2005年)。人種、文化、保険制度が異なる本邦における治療戦略については常に検討の余地があるのも事実である。