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小児の喘鳴:診断と治療のこつ


平成17年2月8日 火曜日
大同病院 小児アレルギー科
部長 寺田明彦先生
【はじめに】

 名古屋市の小中学校・学校検診による気管支喘息罹患率の推移をみると毎年増加しており、2002年には小学校男児:4.39%、(全国平均:3.21%)中学校男児:4.94%(全国平均:2.69%)、小学校女児:2.68%、(全国平均:2.11%)中学校女児:3.26%(全国平均:1.65%)と共に全国平均を大きく上回っている。これまで「いわゆる小児喘息」が思春期に寛解すると言われてきたことと逆であり、原因の解明と早急な対策が必要である。さらに名古屋市区別の罹患率を集計すると、南区、港区、熱田区、瑞穂区の罹患率が高く、ダニなど室内抗原の増加のみならず室外環境の影響、特に自動車の排気ガスや大気汚染との関連が推察される。このような疫学的結果を踏まえて名古屋市の南部一帯の重点的な喘息予防キャンペーンが望まれる。

【喘息鑑別のこつ】

 慢性咳嗽の原因には、感染症(特にRSウイルス、マイコプラズマ、クラミジア感染)、副鼻腔炎、気管支喘息があげられる。なかでも副鼻腔炎は見のがされやすく注意が必要であるが副鼻腔CTにより鑑別は容易である(図1)。小児はウイルス感染に伴って喘鳴を来しやすく、急性細気管支炎、喘息性気管支炎と気管支喘息との鑑別は必ずしも容易ではない(図2)。聴診所見でstridorとwheezeの聞き分けは大切であり、協力の得にくい乳幼児では鼻汁吸引後に聴診したり、風車やテイッシュを吹かせて呼吸音を聞きやすくする工夫が役に立つ。

 アメリカのアリゾナ・ツーソンで行われた大規模な疫学的前方視的研究から、小児の喘鳴を分類している(図3)。@3歳までに初発して以後治癒する「早期一過性喘鳴」、A3歳までに発症し3歳以後も持続するが、6歳以後は徐々に軽快する「非アトピー型喘息」、B3歳までに多くが発症し持続するIgE陽性の「アトピー型喘息」とにわけて考えることができる1。

【気管支喘息への早期介入:吸入ステロイド療法】

 気管支喘息はリンパ球、肥満細胞、好酸球などの炎症性細胞が関与する気道の慢性炎症であるという病態は既に確立されており、小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(JPGL2002)では年齢を考慮した段階的薬物療法として乳児期以外、軽症持続型では吸入ステロイド剤を中心とした抗炎症療法が推奨されている。しかし3歳以下の乳幼児は吸入ステロイド剤を用いた早期介入の是非についてはまだ議論が多い。最近、1?3歳の喘鳴児に吸入ステロイドの1年間投与した臨床研究が報告され、ある程度喘鳴発作を予防できる効果があり身長の伸びや副腎への副作用も少ないと報告された2。

 私が大同病院に赴任した昨年から一年間に新たに吸入ステロイドをコントローラーに用いた14例はアトピー型6例(特異的Ig E陽性)、非アトピー型8例(特異的I gE陰性かつ総IgE低値)中、吸入ステロイド有効例がそれぞれ、4/6、4/8と非アトピー型での有効性が低い結果であった。

【ロイコトリエン受容体拮抗剤の効果】

 吸入ステロイド剤の効果が出にくい背景には、1)不適切な吸入で十分な薬剤が気道に到達していない、2)ステロイド剤の抗炎症効果が及ばない病態があげられる。1)としてはスペーサーの利用の工夫、2)には他の抗喘息薬、特にロイコトリエン受容体拮抗剤(LTRA)が効果を示す場合がある。

 昨年ヨーロッパの呼吸器学会で発表されたMOSAIC (Montelukast Study of Asthma in Children)では6-14歳の持続型喘息患者にモンテルカストを投予する群とフルチカゾンを投与する群で1年間検討し、モンテルカスト投予群がステロイド吸入と同等の抗喘息効果を持つことが明らかになった。今後は、乳幼児でも特に軽症から中等症までの喘息患者へのLTRAの効果が期待できる。

【こつのまとめ】

 乳幼児の喘鳴を診た場合、鑑別のためにβ刺激剤の吸入を行いその反応性を診るのもひとつである(図4)。β刺激剤の吸入で喘鳴が改善すれば「喘息」として治療が必要な場合が多い。また家族のアレルギー歴やダニ、埃などに対する特異的IgEが高値の場合も「喘息」と診断し早期に介入し悪化しないように予防することが、将来の喘息罹患を減らすきっかけになることを期待したい。

参考文献
1. Taussig LM, Wright AL, Holberg CJ, Halonen M, Morgan WJ, Martinez FD. Tucson Children's Respiratory Study: 1980 to present. J Allergy Clin Immunol 2003; 111:661-75; quiz 76.
2. Bisgaard H, Allen D, Milanowski J, Kalev I, Willits L, Davies P. Twelve-month safety and efficacy of inhaled fluticasone propionate in children aged 1 to 3 years with recurrent wheezing. Pediatrics 2004; 113:e87-94.
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