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南圭会特別講演会

時のつながり −生命と地球の共進化−

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平成17年4月19日

名古屋大学地球環境科学 高野雅夫助教授
砂防ダムの壁に付着した緑色の藻状のものがシアノバクテリアのバイオマット
(中房温泉にて)
 30数億年前,シアノバクテリアが登場し光合成による酸素放出を始めた.やがて19億年前には現在の大気と同じレベルの酸素濃度に達した.生物が地球環境を変化させたのである.シアノバクテリアの葉緑体遺伝子は現在でも高等植物に受け継がれ酸素を供給し続けている.多くの生物がその遺伝子を受け継いでいると言う観点からは,地球史上で最も成功した生物と言えるかもしれない.シアノバクテリアそのものは現在でも様々な場所で観察することができる.特にバイオマットを形成している場合,肉眼的に容易に存在を確認できる(右写真).

 さて7億年前,全地球表面が氷に覆われたと言う全球凍結仮説が話題になっている(右下図).その痕跡は当時赤道直下にあった現在のナミビアの石灰岩層などにも残っており,全球凍結仮説が正しいことが科学的に実証されつつあるが,全球凍結の時代,生物は温泉の噴出し部で生存を続けたのではないかと推察している.

 その後6億年の間に5回の生物大絶滅を経て,人類(ホモサピエンス)の誕生に至った.我々人類は,現存する生物では遺伝子的に一番近いチンパンジーから分かれて18種ほどの猿人やホモ属(原人)を経て一属(ホモ属)一種(サピエンス種)と言う大変珍しい生物種となっている(詳しくはhttp://www2s.biglobe.ne.jp/~t_tajima/nenpyo-1/se-0-6.htm).人類の人口増多は森林地帯を農地や都市に変化させ(インドなどで観察することができる),地球全体の環境そのものを大きく変えるまでの影響力を発揮し始めている.
全球凍結した地球の想像図

 地球温暖化を例に説明したい.グリーンランドの氷河の掘削材料から過去の地球大気の気温変化が類推できる.この調査から6000年前から8000年前が間氷期にある現在の気温の最高期であり,その後再冷却が始まっていることが分っている.しかし100年ほど前から再び直線的な上昇に転じていることが観察されている.これは人類の産業活動に伴う地球温暖化が原因と推察される.

 現在の地球には,全球凍結や生物大絶滅を生き延びた大変多くの生物の末裔たちが暮らしており,その種類は地球史上最多である.その中の一種に過ぎない人類が地球全体にはびこり,環境を変化させ,多くの生物の絶滅を引き起こしている.これは過去記録されている大絶滅に匹敵する地球史上の大事件であり,正に我々はこの事件に参加しているのである.人類が時のつながりを引き裂こうとしているのである.

 最後に未来代の話をしたい.大気がこのまま温まり続けると海の表面も温まり海流が停止する.海流は暖かいメキシコ湾流が英国や北欧まで流れ込み欧州の温暖化の原動力になっていることに代表されるように,地球表面の環境に大きな影響力を持っている.その海流が停止してしまうと,急速に高緯度地域を中心とした寒冷化が起きる.大気を温暖化させている石炭や石油のような化石燃料の使用も,埋蔵量に限界があり枯渇と共に使用困難になるであろう.海流停止による寒冷化を人工的に阻止することはまして困難である.やがて再来する氷河期の寒冷な気候の下では現在のような文明を維持することはとても困難である.それでは人類の未来はどうなるのであろうか.

 わたしは人類の絶滅は起こらないだろうと考えている.しかし寒冷化に伴い農業による食物生産量は低下せざるを得ず,人口維持は困難となる.したがって人口減少をいかにソフトランニングさるのか,そしてどのようにすれば幸せな新しい文明に移行できるのか.それがわたしの研究テーマとなっている.
記録作成者 伊藤伸介