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脳梗塞の1次予防、2次予防

社会保険中京病院神経内科 主任部長 陸 重雄 先生
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2004年5月25日 火曜日
  脳梗塞は、脳の、主として動脈が閉塞することによって、その支配領域の脳組織が梗塞(軟化)に陥るものである。従来、発生機序により血栓症と塞栓症に分類されてきたが、最近ではラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、心原性塞栓症に分けられる(表1)。頻度はラクナ梗塞が最も高いとする報告が多いが、アテローム血栓性梗塞が増加する傾向にある。ラクナ梗塞は、脳の主幹動脈から深部に分枝していく穿通枝と呼ばれる細い動脈の閉塞によるもので、通常1.5〜2 cm以下の小梗塞である。大脳基底核、視床、大脳深部白質に好発する。アテローム血栓性梗塞は、もう少し太い脳の主幹動脈にアテローム硬化が形成され発現するもので、ラクナ梗塞より広い領域に軟化をひきおこす。心原性塞栓症は、心臓に形成された血栓が血流に乗って脳にいたり、そこで動脈を閉塞するもので、心房細動、心弁膜症など基礎疾患を有する患者に好発する。最も重篤であり、しばしば中大脳動脈の閉塞をきたし、一側大脳の2/3が障害される。

  これら完成した脳梗塞とは別に、一過性脳虚血発作(TIA)という病態がある。24時間以内に症状が消失するもの、と定義されるが、実際には数分から十数分持続する場合が多い。この中でも特に一眼の視力障害(一過性黒内障)は、眼科疾患と混同されやすいので注意が必要である(表2)。TIAは放置しておくと、その約1/3が将来脳梗塞に移行するとの報告もあり、後に述べる脳梗塞同様の管理が必要である。

  脳梗塞の1次予防というのは、未だ一度も脳梗塞に罹患したことのない者を対象とした予防方法であり、現状では危険因子のコントロールということになる。表3に予防効果が確認されている危険因子と、対策をした場合のリスク低減率を示した。いわゆる生活習慣病、喫煙といったもので、早期から対処することが必要であり、定期検診、患者教育、家庭医による適切な加療といった総合的な対策が不可欠である。脳梗塞の2次予防というのは、不幸にして脳梗塞に罹患してしまった患者に対し、再発しないように治療を行うことを意味する。先に述べた病型により、再発率や薬物治療に差があり、その点でも正しい病型診断が大切である。再発率は年10%程度とされる。2次予防では、1次予防同様危険因子の管理を十分行い、そのうえでさらに再発予防のための薬物療法を併用する。ラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、TIAでは抗血小板剤を、また心原性塞栓症では、ワーファリンによる抗凝固療法が原則である(表4)。心房細動による心原性塞栓症を対象とした様々な臨床試験で、ワーファリンの有用性が確認されており(表5)、可能な限り本剤の服用が望ましい。ただ、INRを指票としたコントロールが必要であるため、コンプライアンスの悪い患者や自分で薬剤管理のできない高齢者には不向きで、効果がないばかりか、時には過剰摂取による出血の危険さえ生じてくる。ワーファリンより効果は劣るが、抗血小板剤でも一定の効果があり、こうした患者には勧められる。先に脳梗塞の1次予防では危険因子の管理が大切であると述べたが、心房細動を有する患者では状況が異なり、中〜高度リスク群に対しては積極的に抗血小板療法や抗凝固療法を行うことが望ましい(表6)

  画像診断の進歩に伴い、これ迄脳梗塞の既往のない患者に、偶然梗塞巣がみつかることがある。無症候性脳梗塞(かくれ脳梗塞)といわれるもので、高齢になる程発見される率が高くなる。多くは大脳基底核や深部白質、視床にみられ、数mm程度の小梗塞が多発することが多い。この無症候性脳梗塞に対しては、危険因子のコントロールを行うことが優先され、抗血小板の投与による有用性は確認されていない。特に高血圧を有する患者の場合、本症は高血圧性脳出血を生ずる血管と同一の血管の障害に起因するため、出血のリスクに注意が必要である。

  最後に脳梗塞の対策のまとめと、地域完結型の脳卒中の診療体制を示した(表7図1)。何よりもまず1次予防が大切であり、また脳梗塞やTIAを発症したら、ただちに専門の医療機関を受診することが肝腎で、軽症だからといって様子をみるようなことは決してしてはならない。ひとたび脳梗塞にいたれば、患者は様々な障害を残し、長期にわたって各々の状態に応じたきめ細かい対処が必要になる。特に高齢者では、わずかな後遺症もADLの低下をまねきやすく、しばしばそれまでの生活を維持することが困難になる。医療と一体となった福祉対策が重要になってくる。

  脳梗塞との戦いは、危険因子の回避にはじまり、後遺症を残した患者の対処まで、長い期間と労力を要する。各医療機関のみならず、生活習慣病の教育や検診などを含めた総合的な取り組みが不可欠と思われる。