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南圭会

「早期動脈硬化の発症・進展予防」

−メタボリックシンドロームとの関連ー

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平成17年10月27日(水)

中部労災病院内科 部長 河村孝彦 先生


(1)メタボリックシンドローム

 車社会の普及,食生活の欧米化など我が国では生活習慣が急激に変化しており,この結果肥満者のみならず糖尿病や予備軍が急増,今や糖尿病は国民病とさえ言われ,その対策は急務とされている(最近,医師会,糖尿病学会,糖尿病協会により糖尿病対策協議会が設立され本格的な糖尿病対策が開始された).肥満,特に内臓に脂肪が蓄積した内臓肥満は内臓脂肪から分泌される各種のサイトカインにより,耐糖能異常を生じるばかりか,高インスリン血症,インスリン抵抗性を基盤として高血圧や高脂血症の発症にも関与する.これらは従来シンドロームX,死の四重奏などmultiple risk factor syndromeと呼ばれていたが,最近,WHO(1999年)やNCEP-ATPV(2001年)によってメタボリックシンドローム(MS)として新たな診断基準が提唱された.WHO基準がインスリン抵抗性を主体とした耐糖能異常を必須条件にしていることを除けば,基本的には内臓肥満,高血圧,高脂血症(高中性脂肪,低HDL-コレステロール血症)を危険因子とし,それぞれが心血管疾患などの動脈硬化に繋がるものと考えられている.(なお,2005年4月の内科学会において我が国でのMS診断基準が発表された.主な相違点は必須項目として内臓肥満が挙げられ,その診断にウエスト径(男性≧85cm,女性≧90cm)を,その他の項目では高血圧(130/85mmHg≦),高脂血症(中性脂肪≧150mg/dl,かつ/または男女とも低HDLコレステロール<40mg/dl),耐糖能異常(空腹時血糖110mg/dl≦)とした点にある.)

(2)動脈硬化の危険因子と診断方法

 動脈硬化の危険因子としては上記のMSの因子に加え,加齢,喫煙が挙げられる.特に最近では非侵襲的な検査方法である頸動脈超音波検査や脈波伝播速度検査(PWV)などが臨床で汎用され,これら検査は冠動脈疾患や脳血管障害のよいマーカーと考えられている.中でもPWVは一般臨床家でも簡便に施行可能である.ただし,PWVは血圧や加齢に強く影響され結果の解釈には注意を要するが,最近話題の仮面高血圧(あるいは早朝高血圧)など潜在的に進行する動脈硬化のスクリーニングにも有用と思われる.動脈硬化の進展予防には単に降圧をはかるだけではなく実際に病態が改善しているか否かが重要であり,例えば降圧によってもPWVの十分な改善が得られない場合には,早朝高血圧の存在などを考慮して降圧剤の変更,追加などを考える必要がある.また血圧管理には家庭血圧の測定も重要である.

(3)軽症糖尿病と動脈硬化

 糖尿病では細小血管障害に加え,軽症あるいは境界型の状態からすでに動脈硬化の進行が見られる.糖尿病の細小血管障害合併予防にはHbA1cを6.5%未満にコントロールすることが糖尿病治療ガイドラインから推奨されているが,大血管症の予防には高血圧(130/80mmHg以下)や高脂血症(LDL-コレステロール120mg/dl以下)の厳格な管理も必要とされる.さらにSTOP-NIDDMなど多くの研究から食後高血糖是正の重要性が示されている.

(4)高脂血症の管理

 動脈硬化進展阻止のために病態に合わせた脂質管理の指針が出されている(動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年).しかし,LDL-コレステロールの管理目標達成率は不十分で,特に危険因子の集積した患者における目標達成率は50%以下とされる.そのため日常診療ではLDL-コレステロールを測定するか,計算により算出し,個々の患者に合った目標値を達成するよう努力する必要がある.最近では種々の強力なスタチンが開発され,さらに,これらスタチンにはコレステロール低下のほかに多面的な動脈硬化抑制作用も期待されている.一方,高中性脂肪はMSの因子にも挙げられているが,付随するsmall dense LDL,低HDLコレステロール,高RLP-Cなどの存在が重要で,これらの病態にある患者に対しては食事療法の徹底に加え薬物治療が必要とされる.

 以上,早期に動脈硬化を発見するとともに,動脈硬化進展の危険因子に対して数々のガイドラインから示された指針を達成するよう努めることが肝要と考える.ただし,大切なことは内臓肥満のような根底にある病態の改善であり,あくまでも基本は食生活(および運動)を中心とした生活習慣の改善にあることは言うまでもない.