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浮腫の診断と対応−循環器疾患が原因の場合−

講師 名古屋市立大学病院 循環器内科
土肥靖明 先生

 浮腫とは皮下組織に体液が過剰に貯留した状態をさし、日常の臨床で最もよく遭遇する症候の一つである。様々な疾患を基礎として浮腫は発生するが、本稿では循環器疾患を中心として浮腫の鑑別について解説する。

1.メカニズムを考える

 皮下組織における体液量は、毛細血管壁を介する濾過、再吸収、リンパ管への吸収により制御されている。したがって、表1のような病態で浮腫が発生する。
表1 発症機序からみた浮腫の原因
病態 疾患
毛細血管静水圧上昇 心不全、腎不全、肝硬変、血管拡張薬、静脈閉塞
血漿膠質浸透圧低下 ネフローゼ症候群、肝硬変、低栄養
毛細血管透過性亢進 炎症、熱傷、特発性浮腫、血管浮腫、敗血症
リンパ管閉塞 悪性腫瘍、手術、外傷
間質の膠質浸透圧上昇 甲状腺機能低下症
2.原因別にみた浮腫の特徴

 右心不全では右心室から肺動脈への拍出が減少するとともに、静脈から右心系への血液還流が障害されるため静脈圧が上昇して浮腫が起こる。左心不全では肺静脈から左心系への血液還流が障害されるので肺の浮腫(肺うっ血)は起こるが、体浮腫は起こらない。しかし、左心不全に右心不全を合併すればこの限りではなく、実際、重症の左心不全は右心不全を合併する。このほか、成人では肺性心、肺血栓塞栓症、肺高血圧症が右心不全を起こす。したがって、心不全による浮腫の特徴は、頻脈、頚静脈怒張、体重増加、肝腫大、BNP上昇等右心不全のサインがあることである。さらに、全身の静脈圧が上昇するので、左右対称に見られるという特徴を持つ。これに対し、局所の静脈の物理的閉塞による浮腫は、深部静脈血栓症、上大静脈症候群のように局所的浮腫として出現する。また、血管拡張薬(特にカルシウム拮抗薬)の動脈拡張作用による浮腫も頻度が高い。

 周期的、間歇的に出現する特発性浮腫は毛細血管の透過性亢進によると考えられており、表2に示す診断基準が有用である。治療は塩分制限、弾性ストッキングが基本であり利尿剤使用はなるべく避ける。薬剤の副作用として有名な血管浮腫(血管神経浮腫、Quincke浮腫と同義)は、眼瞼、口唇、陰部、舌、喉頭等に好発する境界不明瞭な硬い局所性浮腫であり、数分から数時間で極期となり、数時間から数日で軽快するという特徴を持つ。
表2 Thornの診断基準(下記3項目をすべて満たしたとき特発性浮腫と診断する)
1.朝夕の体重差が1.4kg以上
2.浮腫をきたす器質的疾患の除外
3.精神障害がある、または、感情が不安定
 もう一つ忘れてはならないのは薬剤による浮腫である。メカニズムは薬剤によって異なりナトリウム・水負荷や腎での排泄量の低下、血管透過性の亢進、腎障害等さまざまである。

3.浮腫の鑑別

 性状、検査所見から浮腫を大まかに鑑別する方法を図1に示す。
(1) 問診・性状から鑑別する

 甲状腺機能低下症(粘液水腫)、血管浮腫、リンパ浮腫は圧痕を残さないnon-pitting edemaであり、この他はすべてpitting edemaである。また、静脈閉塞による浮腫、血管浮腫、リンパ浮腫は局所性であるが、この他はすべて全身性浮腫である。

 心不全による浮腫は重力の影響を受けるため、体位と出現部位との関連が強く、夕方に増強する下肢の浮腫が特徴的である。発作の既往や体重の著明な日内変動は特発性浮腫を疑い、リンパ浮腫を起こす可能性のある既往(悪性腫瘍、手術)にも注意が必要である。また、薬剤の副作用の可能性は常に念頭に置く必要がある。

(2) 検査結果から鑑別する

 検尿、血清アルブミン値、血清クレアチニン値、胸部レントゲン写真が特に有用である。血清アルブミンが低値であり、尿蛋白が強陽性であればネフローゼ症候群、陰性であれば肝硬変を疑うし、心不全(肺性心も含めて)の診断には胸部レントゲン写真が参考となる。一般に、検尿所見が正常で血清クレアチニン値が正常であれば腎性浮腫は考えにくく、また、肝硬変では、全身浮腫が軽微であっても腹水が著明である。静脈血栓症ではFDP、D-dimer等の線溶系マーカーが上昇する。

 本稿では取り上げなかったが、月経前浮腫、更年期浮腫、低栄養による浮腫もあり、また、原因診断のつかない非特異的浮腫も実際には多い。

4.終わりに

 日常臨床で比較的良く遭遇する浮腫の鑑別について概説した。理解を整理するため、浮腫をメカニズムと原因疾患によって分類し、さらに性状と検査所見の両面からの鑑別を試みた。治療についてはほとんど触れなかったが、原因疾患の治療あるいは原因薬剤の中止が基本である。原因検索をせず利尿薬を長期間使用することは避けるべきである。本稿の内容が明日からの臨床の一助になれば幸いである。

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