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浮腫の鑑別 
-腎臓,内分泌疾患が原因の場合−

刈谷総合病院 腎・膠原病内科 小山勝志 先生
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2004年6月29日 火曜日
はじめに

 浮腫は様々な機序が働くことにより結果的に体内に余分な水分および塩分が蓄積する状態のことである。本稿では浮腫を招くいろいろな機序から浮腫の鑑別を試みたい。

浮腫の分類

 浮腫はその発生機序により表1のように分類することができる。表に示すごとく、浮腫の発生はその原因疾患により機序が異なることがわかる。

浮腫の機序

 腫の機序は大きく分けて、局所性因子と全身性因子に分けて考えることができる。表1は局所性因子によって浮腫を分類したものといえる。局所性因子はスターリングの仮説を用いると容易に理解できる。
局所性因子

 末梢毛細血管は膠質浸透圧、静水圧、組織圧といった物理的な力による物質移動、すなわちスターリングの法則による機序にしたがい体液の移行交換を行っている。そこでは、血液の膠質浸透圧は血管内に水分を貯留させるように働いている。その大部分は血漿アルブミンによるものであり、たとえばネフローゼ症候群では血漿アルブミンの腎臓からの著明な喪失のため低蛋白血症をきたし膠質浸透圧の低下のため、末梢組織に水分が貯留することになる。眼瞼や足背などに浮腫が出現しやすいのはこの部分の組織圧が低いためである(1)(2)。

全身性因子

 局所性因子により、なんらかのシグナルが発生すると、引き続き全身性因子が発動する。そのメカニズムは複雑であり症例ごとに考察しなくてはならない(図2)。そのおもなものを解説する。
(1)頚動脈洞、大動脈弓の圧受容器
 血圧の低下は循環中枢を介して視床下部−下垂体後葉に作用してADHの血中レベルを増す。

(2)体装置(糸球体近接装置)
  循環血液量の減少は糸球体近接細胞(JG Cell)からレニンを分泌させ、レニン−アンギオテンシン系によりアンギオテンシンUを生成する。アンギオテンシンUは視床下部に作用して飲水を起こさせると共にADHの分泌も促進させる。抗利尿ホルモン(ADH)は視床下部の視索上核及び室傍核で生成され、下垂体後葉より分泌される。ADHは腎集合管基底膜の受容器に結合し、アデニレートシクラーゼを活性化し、ATPをcAMPに転換する。cAMPはプロテインキナーゼを活性化して管腔☆膜のタンパク質をリン酸化し、水の透過性を変化させて水の再吸収を増大させる。

(3)飲水行動
 視床下部外側野に存在する。血漿浸透圧が高値になると口渇中枢が刺激される。
例えばネフローゼ症候群の場合を例にあげてみる。局所性因子により、血中水分が大量に組織間に漏出することにより、循環血液量の減少をきたし、腎血流量も減少するため、レニン、アンギオテンシン、アルドステロン系の発動がおこる。結果的に組織内へのNa、水分の貯留を増強することになる。しかし多くのネフローゼ症候群では、さまざまな理由で腎機能の低下を伴うことが多いので、糸球体のろ過機能がおかされる結果、尿の生成が阻害され、Na排出能力も低下して組織内のみならず血管内にもNa、水分の貯留をきたす。しかしネフローゼ症候群の浮腫形成機序を単一の説により結論づけることは難しく、症例毎にこれら2つの機序を加味して考える必要がある。
浮腫の鑑別

 以下に発症機序にもとづいた鑑別を試みる。
(1)浮腫性状からの鑑別
 指でへこませた浮腫がもどらないタイプ、指でへこませた浮腫がゆっくりもどるタイプ、指でへこませた浮腫がすみやかにもどるタイプの3種類に分類できる。浮腫の機序との関係は表1を参照していただきたい。

(2)浮腫以外の合併症候からの鑑別
 次に浮腫以外の合併症候をみてみよう。表2に示すように浮腫の発生機序により、原疾患も異なり、合併症候も異なることが分かる。たとへば、静脈圧亢進による浮腫の場合は、その原疾患として下肢深部静脈血栓症があるが、下肢は腫脹し圧痛を伴う。場合によっては自発痛さえある。またoverhydration による浮腫の場合、多くの場合肺水腫を合併するため呼吸困難をうったえる例が多い。

(3)臨床経過からの鑑別
 局所性因子により、なんらかのシグナルが発生すると、引き続き全身性因子が発動することはすでに述べた。全身性因子が進行した状態では、全身性浮腫となってしまうため、浮腫の原疾患を特定することが困難となる。実際の臨床においては浮腫の初期症状からその進行過程をすべて観察することができない場合が多く、来院時にはすでに臨床経過が進行してしまっている。したがって、浮腫の原疾患を特定するためには、全身性因子の進行過程のあり方を頭に入れておく必要がある。ここでは、ネフローゼ症候群を例にあげて解説する。
ネフローゼ症候群では、腎臓から多量にアルブミンが漏出する。その結果、膠質浸透圧の著明な低下をきたす。血清成分は血管外へ漏出し、血管内はその容量を保てなくなる。血管内脱水のシグナルは腎臓へ届き、糸球体近接細胞(JG Cell)からレニンを分泌させる。レニン−アンギオテンシン系によりアンギオテンシンUを生成する。アンギオテンシンUは副腎皮質からのアルドステロンの分泌を刺激するだけでなく、視床下部に作用して飲水を起こさせると共にADHの分泌も促進させる。結果的に全身浮腫となるが、のどの渇きと亢進してしまったレニン−アンギオテンシン系により、悪循環を形成されるため、浮腫はどんどん増悪する。
まとめ

 発生機序からの浮腫の鑑別を試みた。浮腫は多種多様の病態からおこるため、その原因の特定は容易でない場合が多い。しかし局所性因子から、全身性因子への進展過程を理解できれば、浮腫の鑑別は比較的容易になると考えられる。

文献
1.Epstein AA: Concerning the causation of edema in chronic parenchymatous nephritis: Mrthod for its alleviation. Am.J.Med.Sci 154: 638.1917
2.Dorhoit Mees EJ et al: Observation on edema formation in the nephritic syndrome in adults with minimal lesion. Am J Med 67: 378,1979


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