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テーマ  コントロール不良な気管支喘息へのザフィルルカスト(アコレート)の追加は有効か

作成年月日  2002年7月25日

シナリオ

私は診療所の医師である.昨日総合病院から気管支喘息
16歳の女性が紹介初診した.2歳から喘息を罹患,一時軽快していたが14歳のとき再燃し,総合病院小児科での加療を再開したとのことであった.発作頻度は1週間に3回以上で,早朝の喘鳴と呼吸困難がみられた. 前医の処方はアルデシン200μg12回,テオドール2錠,メプチンエアー呼吸困難時2吸入となっていた.このような治療が行われても,この患者では症状が継続しているが,エビデンスに基づいて治療薬を考えるとしたら,どのようになるのだろう.
Step1 PECOの設定
PECOの設定に当たって疑問が漠然としているので,吸入ステロイドとテオフィリン剤内服およびβ2刺激剤の吸入を行っていても,症状がつづくコントロール不良な喘息に,どんな治療オプションがあるの考えてみた
n
  • 吸入ステロイドの増量
  • ロイコトルエン拮抗剤の追加 n
  • 長時間作動型β2刺激剤の追加
  • nnこのまま何もしない
このような選択オプションの中から内服薬で「効く効く」と評判を聞いているロイコトルエン拮抗薬の追加効果について調べてみることとした
(patient)気管支喘息の16歳の女性
E (exposure)アコレートを従来療法に併用すると
C (comparison) しない場合に較べて
O (outcome) ピークフロー値(PEFR)が改善するか
                       喘息の増悪は減るか
                       入院は減るか
Step2 情報収集
情報源  : Cochrane library 2002,issue2 および Clinical evidence 2001, issue 6

検索用語  Zafirlukast

収集論文 1:
The Cochrane Library, Issue 2, 2002. Oxford: Update Software. Ducharme F, Hicks G, Kakuma R. : Addition of anti-leukotriene agents to inhaled corticosteroids for chronic asthma (Cochrane Review). Abstractへリンク

収集論文 2: Clinical evidence 2001, issue 6 p1145-46.:Leukortiene antagonist for people with mild to moderate, persistent athma. Cates C, FitzGerald JM


Step3 批判的吟味
収集論文1:The Cochrane Library, Issue 2, 2002. Oxford: Update Software. Ducharme F, Hicks G, Kakuma R. : Addition of anti-leukotriene agents to inhaled corticosteroids for chronic asthma (Cochrane Review).
§結論は信頼できるか?
n第1の基準
2の基準
§結論はいかなるものか?

総合的な結果は何か?       赤字は有意差ありを示す

結果1.喘息症状のある患者での,ロイコトルエン拮抗剤(Anti-leukotriene agents 以下 ALTと略す)と吸入ステロイドの併用群 対 吸入ステロイドのみの群(用量はロイコトルエン拮抗剤併用群と同じ)の比較
※ALTにはzafirlukast もしくは montelukastを使用    

 
  • ALTを吸入ステロイドに追加しても,全身投与ステロイドを必要とする喘息増悪の頻度は変わらなかった.しかし2つの臨床研究を統合すると朝のPEFRの改善β2刺激剤吸入の使用頻度の減少が見られた
治療 アウトカム 結果 95%信頼区間
Licensed doseのALT 全身投与ステロイドを必要とする喘息増 RR 0.61 0.31〜1.05
2つのtrialの合算
朝のPEFRの改善
ベータ2の使用
WMD 7.71L/min
WMD  −0.32パフ/日
2.98〜12.44
−0.08〜-0.56
Licensed  dose以上のALT
全身投与ステロイドを必要とする喘息増
RR 0.34
NNT 20
0.13〜0.88
11〜100
2つのtrialの合算
FEV1.0の改善
PEFRの改善
ベータ2の使用
RR   0.10L
WMD 27.2L/min
WMD −0.43パフ/日
0.01〜0.20
18.6〜35.8
-0.22〜-0.63
結果 2. 喘息症状のある患者での,Zafirlukast 80mg 1日2回と吸入ステロイド併用の群 対 吸入ステロイドの用量を2倍にした群の比較

2.
12週後までの全身投与ステロイドを必要とする喘息の増悪のRRは変わらなかったので,この2つの治療法の効果は同等かも知れない.しかしこの二つの治療法の効果が「同等」と言えるほどは信頼区間が狭いくない.(症例間のばらつきが多く信頼性が低い)


アウトカム 結果 95%信頼区間
12週後までの全身投与全身投与ステロイドを必要とする喘息増悪 RR=1.08 0.47-2.50
PEFR(zafirlukast併用群で好ましい結果)
WMD=-1.96% -3.83〜-0.09
FEV1.0の改善
PEFR症状点数
短時間作動型β2刺激剤吸入回数
喘息コントロール不良による治療脱落
病院への入院
NS
副作用による脱落(zafirlukast併用群で好ましくない結果)
肝機能障害
(zafirlukast併用群で好ましくない結果)
RR=2.77
RR=5.36
1.02-7.58
1.40-20.44
結果 3. コントロール良好な患者での,ロイコトルエン拮抗剤と吸入ステロイド併用の群 対 吸入ステロイドのみの群(用量はロイコトルエン拮抗剤併用群と同じ)で,吸入ステロイドを減量(tapering)していったときの12週間の比較
  • 4つの臨床研究を統合すると,ALT併用群では喘息コントロール不良を来たして治療脱落に至るものが少なかった
治療 アウトカム 結果 95%信頼区間
Zafirlukast β2刺激剤吸入の使用頻度
症状点数
最終FEV1.0
最終PEFR
WMD −0.04
WMD −0.05パフ/日
WMD 0.12L
WMD 14.4L/min
-0.15〜0.07
-0.55〜0.45
-0.02〜0.27
-4.54〜33.48
4つの臨床研究の合 喘息コントロール不良による治療脱 RR 0.56 0.35〜0.89

§ 結論は自分の患者の治療に役立つか?
w
  • 結論を患者の治療に適応できるか?
    •  はい.バッチリ応用できる
  • w臨床的に重要な全ての治療効果は検定されているか?
    • いいえ.喘息点数,全身投与ステロイドが必要なる喘息の増悪,FEV10PEFRなどが検討されていたが,喘息死,入院,QOLなど患者の生活の質に関る重要な項目は評価されていない
  • w治療によって得られるものは,起こり得る副作用やコストに見合うか?
    • はい/いいえ.活動性のある喘息患者での吸入ステロイドへのALTの上乗せは,朝のPEFRの改善β2刺激剤吸入の使用頻度の減少を期待できるかも知れないことが分かった.残念なことに,喘息症状が改善するかは不明.コントロールの安定している患者ではALTの上乗せによって,吸入ステロイド減少を行っても,12週後の喘息コントロール不良による治療脱落の減少を期待できるかも知れない.副作用はlicensed dose以上のALTを投与した場合しばしば見られるが,それ以内であれば多くなさそう.コストはzafirlukast(40mg) 1182.5円ある
Step 4 患者への応用
この論文は自験例にピッタリである.内的妥当性,および外的妥当性ともに満足した私は,この論文の結果*を患者さんにお話して,治療方針を2人で決めてゆくことにした
*結果とはn有症状患者では,吸入ステロイドにALTを上乗せすると,朝のPEFRの改善(WMD7.71L/min)β2刺激剤吸入の使用頻度の減少(WMD: 0.32パフ/日)を期待できるかも知れない
Step5 評価
(評価 1) 患者さんが話したいことを全て聞き出しただろうか.私のほうで勝手にアコレートについて調べてが,患者さんはどのような治療を望んでいるのだろう
    例えば
  • n吸入ステロイド剤の変更,増量
  • n吸入はもうこれ以上大変で嫌だと言うかもしれなが,長時間作用方β2刺激剤の追加
  • n薬が増えるくらいなら,何もしないでこのままの方が良い
(評価 2)もっと効率よく結論まで行き着くことはできなかっただろうか

 
(例 1)ガイドラインを利用する
  • NHIガイドライン第2(1997年)(日本語版)
      • wP86 「軽症持続型喘息では12歳以上ではALTを」と書かれていた.しかし,実際に私がエビデンスを調べてみたところでは,有症状の喘息に対しては,licensed doseALTの併用は,わずかに「朝のPEFRの改善とβ2刺激剤吸入回数の減少」と言うエビデンスしか見つからなかった.ガイドラインの記載に疑問を感じる
  • n日本製「喘息予防・管理ガイドライン」(1998)
    • 75 ステップ1から4まで全てのステップでの治療薬として挙げられている.これもどんなエビデンスに基づいて書かれているのか全く根拠不明
    w
このようなガイドラインの記載と,得られたエビデンスを比較すると,患者さんに自信を持って治療方針をお示しする材料にふさわしいか疑問になってしまう.ガイドライン上のALTについての記載は,エビデンスが不十分であり,権威者の意見と言うレベルであろう.
  (例 2)Up To Dateを利用する
n
  • n
    Anti-leukotriene agents  also may facilitate reduction of ICS dosage in patients on low or medium doses of ICS.
  • n
    Other evidence suggests that anti-leukotriene agents may improve symptoms in some patients with suboptimal control despite treatment with ICS.(CSRDVirchow論文と同じ)
CSRDから得られた論文よりmayを使いながらも好意的なコメントがされていた.私にとってはCochrane libraryのCDSRから得られた論文のコメントの方がすっきりしていて受け入れやすかった
  (例 3)再びClinical evidenceを見る
  • コントロール不良の喘息に対する吸入ステロイドへの長時間作動性吸入β2刺激剤の追加→「有益である」との記述あり
    • 2つのRCTで,ICSに上乗せした場合プラセボ−と比較して,長時間作動性β2刺激吸入剤ではQOLスコア−,PEFRFEV1の改善が見られた. (CDSRの結果では,ALTを上乗せした場合は「朝のPEFRとβ2吸入の減少」しか差が見出されなかった)
    • w4つのRCTで,コントロール不良な患者でICS2倍にする場合と,長時間作動性β2刺激吸入剤併用を比較した場合,後者でPEFR,FEV1,無症状の日数と夜間数,緊急治療が不要だった日数と夜間数に改善あり
  • 以上のことは,吸入ステロイドを使用していてもコントロール不良な喘息に対しては,ALTではなく,長時間作動性β2刺激吸入剤を併用すべきであるとするエビデンスの方が強力であることを示している.コストもセレベント50μgで1パフ70円とアコレート(40mg)182.5円の半額以下である(1日薬価にしてそれぞれ140円と365円).あとは患者さんが吸入薬が増えることを好むか,内服を好むかのpreferenceである
  • w
    はじめからClinical evidenceだけではいけなかったのだろうか?
    • コントロール不良な喘息に対するALTの吸入ステロイドの上乗せ効果は,clinical evidenceでは取り上げられていない
    • したがってCSRDでの検索も仕方がなかったかと思われる
(評価 3) 患者さんに十分情報提供できるだろうか
かなり説明しにくい結果であった.事実については医師としての知識がないと理解しにくいであろう.わかりやすく「吸入ステロイドにATLを追加すると喘息症状が改善します」とお話すれば,それは真実ではない訳で(症状の改善は証明されていない),かといってPEFRが良くなるかも知れないとか,β2刺激剤の吸入回数が減るかも知れないとお話しても,医学の素人である患者さんには分かりにくいであろう.全く持って十分に情報提供できるかと言うことに関しては,自信がない
(評価 4) 自分の方針を押し付けることにならないだろうか
まったくもって,医師の方針を押し付けることになるのではないか,危惧して止まない.誰でも良いから上手に患者さんに医療情報を提供し,治療方針を押し付けなくて済む方法を教えていただきたい
(評価 5) かと言って方針を患者任せにはしなだろうか
これも難しい.もっと確かなエビデンスが得られていれば,医師も患者も理解しやすく治療方針を立てやすいが,今回のような結果しか得られない場合は,医師も患者も方針が立てづらく,錠剤タイプのALTを選択するか,吸入タイプの長時間作動型β2吸入刺激剤を選択するか,時間を掛けて話し合って行くしかないであろう.

批判的吟味者 伊藤伸介 2002年7月24日

コメント

Step 5 評価 (例 3)に記載した「以上のことは,吸入ステロイドを使用していてもコントロール不良な喘息に対しては,ALTではなく,長時間作動性β2吸入を併用すべきであるとするエビデンスの方が強力であることを示している」との私自身のコメントは,吸入ステロイドを行っていてもコントロール不良な喘息に上乗せする薬剤を考えた場合,ロイコトルエン拮抗剤ではなく長時間作動型β2刺激剤を選択しなくてはいけないと言う絶対的事実を示しているのだろうか
n現在までに,ロイコトルエン拮抗剤,長時間作動型β2吸入剤それぞれが,プラセボ,あるいは併用薬なしと比較して追加効果を見出しているが,この2剤の吸入ステロイドへの上乗せ効果を検証するための直接2剤の比較研究はまだ見出せなかった.今後,効果を比較するための科学的検証としてRCTを計画しても,両薬剤の薬効の差はわずかであろうから,莫大な症例数が必要となるであろう.そしてRCTを行った場合,長時間作動型β2吸入剤に軍配が上がるとは限らないであろう.またnどちらを使おうと,臨床的差はわずかであると推定される nしたがって,長時間作動型β2刺激吸入剤を選択するのが正解と断定することは,今の私にはできない

追加:興味深いことに,すでに吸入ステロイドを使ってもコントロール不良な喘息に,ATLと長時間作動型β2吸入刺激剤の上乗せについてのRCTのSystematic reviewが,CDSRのプロトコールに組まれていた(Cochrane library 2002 issue2)
Anti-leukotrienes versus long-acting beta2-agonists as add-on therapy to inhaled corticosteroids for chronic asthma [protocol] Ram FSF, Ducharme FM Date of most recent substantive amendment : 23 April 2001 Review expected to be published in: Issue 2, 2002 (←予定より送れているようである)
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