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テーマ 異型狭心症(冠血管攣縮性狭心症)でカルシウム拮抗剤の中止は可能か

 

シナリオ

初診時46歳の男性,設計士である.ある日午前2時ごろ前胸部痛で覚醒し,3分ほど続いたと言う.午前4時頃にも3分ほど持続する同様の胸痛が再燃し,このようなことが3ヶ月ほど続いた.ある日胸痛が一段と強く出現し,冷汗も伴うほどであったため,当院を初診した.高脂血症,高血圧,糖尿病,冠動脈疾患の既往,家族歴は認めなかったが,120本喫煙をしている.病歴から異型狭心症を疑い総合病院を紹介した.
3ヶ月後紹介状を持参し,当院を再受診した.「冠状動脈造影のアセチルコリン誘発試験で,びまん性収縮を認めるも陰性と判断した.しかし症状として異型狭心症が考えられ,ヘルベッサーR 1C 寝る前を処方したところ軽快したので,継続治療をお願いしたい」との内容であり,以降ヘルベッサーRの処方を依頼通り継続した.2年後に1分ほど続く夜間胸痛発作が2晩続き,ニトロペンを内服し軽快した.その後さらに2年経過したが現在に至るまで欠かさずヘルベッサーRを内服し,胸痛発作も再燃していない.
過日診察の折に,いつまでこの薬剤を飲みつづけなくてはいけないのか質問を受け,調べてみることとした.

 

Step1 PECO

P:異型狭心症を有する成人男性
E:カルシウム拮抗剤を継続すると
C:中止した場合と較べて
O:異型狭心症の再発が起き易いか
  心筋梗塞の発症頻度が高まるか
  死亡頻度が高まるか

 

Step2 情報収集

20017月のある日の午後,Pubmedを利用して検索を行った.検索用語には下記を使用した.

"Angina Pectoris, Variant"[MESH] AND "Calcium Channel Blockers"[MESH]

これで329文献出てきたので,Limithuman, clinical trial, age<19を入れて検索し直した所,41文献となった.さーと眺めてみた所,下記の論文が眼に入った.

Igarashi Y, Tamura Y, Tanabe Y, Fujita T, Yamazoe M, Shibata A. Angina-linked syncope and lack of calcium antagonist therapy predict cardiac arrest before definitive diagnosis of vasospastic angina. Coron Artery Dis. 1994 Nov;5(11):881-7. 

その他はとりあえずカルシウム拮抗薬の短期効果についての論文が目立つのみで,長期予後についての論文がピンと来なかったので,これ以上検索用語に悩んでいるよりClinical Queriesを使用した方が早いと考え試してみることとした.上記で使用したlimitは,はずした.検索用語は前記と同じ#1を使用し,CategoryprognosisEmphasisspecificityとし検索したところ18文献となった.ここでlimitsEnglishに絞り込んだ所12文献になった.以上の中から716日に行われたTV会議(step12について検討した)の中で,下記の論文が一つの候補として選ばれた

1)Yasue H, et al.: Long-term prognosis for patients with variant angina and influential factors. Circulation. 1988 ;78:1-9. ABSTRACTへリンク

この検索とは別に,私が行ったのとは全く独立して,亀井三博先生がCocrhrane library 2001issue2を使用して,検索式 "Variant angina" OR "Angina pectoris variant(MeSH)"を用いて検索を行い,CCTRより86論文を見つけ出された.この中から,亀井先生のご判断で下記の2論文が批判的吟味の対象として選ばれた.

2) Pesola A et al. Efficacy of diltiazem in variant angina.Results of a double-blind crossover study in CCU by holter monitoring. The possible occurrence withdrawal syndrome. Giornale Italiano diCardiologia 1987;17:329-339.  ABSTRACTへリンク
3) Schroeder JS et al.: Absence of rebound from diltiazem therapy in Prinzmetals' variant angina. Journal of the American College of Cardiology 1985 ; 6 : 174-178. ABSTRACTへリンク

Step 3  批判的吟味

上記のように選定された論文について,827日と917日の2回に渡ってTV会議を開き,6つのサイト9名の医師で批判的吟味を行った.TV会議で指摘があったことに網掛けをした.
引用論文1):Long-term prognosis for patients with variant angina and influential factors. Yasue H et al. Circulation. 1988;78:1-9. ABSTRACTへリンク

批判的吟味者:国立名古屋病院 柿原寛子, はざま医院 伊藤伸介, 日時:2001年8月25日

論文のPECO
P:虚血性心疾患の疑いで入院しCAGを施行した患者のうち,下記の基準を満たした患者
1)     狭心症発作が安静時に見られ,0.2mV以上のST上昇を伴う
2)     ニトログリセリンの舌下で症状の寛解が得られる
3)     発作に際して,心逸脱酵素の上昇が見られない
E:どんな予後因子を持った患者が
C:持たない患者と比較して
O:観察期間中生存するか,あるいは心筋梗塞を合併せずに生存するか
1.        結果は信頼できるか
対象となった患者は明確な基準に基づいて選ばれ,患者全体を代表するものとなっているか.患者群の病期はそろっているか
異型狭心症の定義(診断基準)は上述したように明確になっているし,適切な定義だと思う.このような診断基準で選ばれた患者は,異型狭心症を代表する群になっていると考える.しかし診断基準にエルゴノビンによる誘発テストは含まれていない.現在行われている誘発テストは,診断においてどんな付加的意味があるのだろう? 患者は熊本大学病院でCAGを受け診断基準に照らし合わせ異型狭心症と診断されたものであるが,必ずしも熊本大学病院受診時が初発と言うわけではなく,同病院で診断される前に他院で一定期間フォローされていた患者含まれていると考えられ,病期が揃った患者群と言うわけではない.Inception cohortと言うことは明記されていない.
十分に長い期間,経過観察が行われたか.追跡は十分完全に行われたか(脱落が少ないか)
観察期間は36-184(平均80.5;6.7)と他の研究と比較して十分長い.診断基準に適合した患者は当初245例.その内1例追跡不能,8人は心疾患以外の原因で死亡,5人はPTCAを受けた.この14人については,死亡やPTCAが施行された時点で解析から除外されている(P3左カラム下から12行目).以上から追跡率は94%
「十分に長い期間経過観察を行う」ことの意味 : これは異型狭心症の予後をみた論文であるが,異型狭心症の予後フォロー期間としてどれくらいの期間が適切か何とも言えないが,追跡期間が長くなるほど,例えば癌などによる死亡も紛れ込んできて,2群間の予後の差がなくなってしまう.したがって追跡期間が長ければ良いと言うものではなく,疾患と解析対象にしている予後因子の発症時期なども考慮に入れておく必要がある.
◆転帰は客観的でバイアスを避けたものが用いられたか
はい.follow-up に来なかった人を電話でフォローした群を,外来に来て症状を確認できた群と同様に扱っていいのか疑問は残るが,選ばれた転帰は生存,あるいは心筋梗塞を合併せずに生存することであり,いずれも比較的客観的に測定可能な転帰と考える.
◆重要な予後決定因子に関して補正を行い検討されているか
はい.8つの予後決定因子が選ばれているが,過去の複数の研究を参考にして選択されており,重要な因子が選択されていると考える(3左カラム下から8行目).しかし心臓死に影響を及ぼすような合併症やその他の事項(高血圧・糖尿病・高脂血症・年令・アスピリンや?ブロッカー使用歴etc)について比較・補正は行われていない.
2.     結果はどのようなものか
◆経過観察の行われた期間内に目標とした結果を生じる患者の割合はどれくらいか
a.長期予後:Figure1より (追跡開始時を100%として計算)

 

1年生存率

3年生存率

5年生存率

10年生存率

生存者全体

98%

97%

97%

93%

心筋梗塞を合併しない生存者

86%

85%

83%

81%

b.予後因子のうち,生存群で統計学的に有意差を認めたもの:Table2
発作中にST上昇が前壁・下壁両誘導に出現したもので,それが見られなかったものに比較して,有意に死亡が多い        P=0.0004
Ca拮抗剤の内服ありで,有意に生存が多い      P=0.0024
左室機能正常で,生存多い           P=0.0025
喫煙なしに生存多い            P=0.0056
アルコール接種なしに生存多い    P=0.0072
c.予後因子のうち,心筋梗塞を発症せずに生存した群で統計学的に有意差を認めたもの(Log rank testで解析):Table3
 Ca拮抗剤の内服あり生存多い              P=0.0030
 左室機能正常,生存多い             P=0.0152
 冠動脈疾患なし生存多い              P=0.0201
 バイパス手術を初期治療として必要としたものに有意に死亡が多い            P=0.0236
 疾患活動性低いで生存多い          P=0.0498
d.予後因子のうち,心筋梗塞を発症せずに生存した群で統計学的に有意差を認めたもの (Cox proportional hazard modelで解析):Table4
 Ca拮抗剤の内服あり生存多い              P=0.0028
 冠動脈疾患なし生存多い            P=0.0080
 発作中にST上昇が前壁・下壁両誘導に出現したもの有意に死亡が多い      P=0.0459
◆予後に関する予測はどの程度正確か(その差の信頼区間をみる)
a.長期予後:Figure1より (追跡開始時を100%として計算,95%信頼区間を示す)

 

1年生存率

3年生存率

5年生存率

10年生存率

生存者全体

96-100%

95-99%

94-100%

84-100%

心筋梗塞を合併しない生存者

82-90%

80-90%

77-89%

67-95%


3.       結果は自分の,そして自分の患者の役に立つか          
自分の患者に類似した患者が研究の対象となっているか
自分の患者は,紹介状の返事を見る限り 症状として異型狭心症が考えられ,ヘルベッサーR 1C 寝る前を処方したところ軽快した」と言うだけで診断が不確実で,この研究の対象となった患者群より異型狭心症である可能性は低い.
◆その結果が治療の選択に関わるか
柿原:survival, survival without MIだけでなく発作がどのくらいの程度でおきるかも知りたいかと思います.
伊藤:平均6.7年追跡して予後因子を検討した中で,生存群全体,あるいは心筋梗塞を発症せずに生存した群単独でも,Ca拮抗剤の内服が有意に多かったことが,8つの検討項目の中でもほぼ最も小さなP値をもって認められた.このことは,Ca拮抗剤の継続が異型狭心症患者の生存に大きく寄与している可能性を示している.しかしCa拮抗剤の中断についてはどのように生存・死亡に寄与するかは,この結果からは分らない.またCa拮抗剤未使用の理由も,初期のころにはその有用性が理解されていなかったことが指摘されているが(p2右カラム上から8行目),Ca拮抗剤が未使用である群に初期の患者が多く含まれている可能性があり,そのような患者はCa拮抗剤以外の治療も後期の患者と比較して未発達である可能性があり,そのような交絡因子のために,Ca拮抗剤未使用群で死亡が多いと言う結果が導かれた可能性もある.
◆研究の結果を語ることが患者への説明に役に立つか
柿原:結果が信頼できるなら,服薬が必要だということを理解してもらうのに役立つと思います.
伊藤:Ca拮抗剤の継続を希望する患者への説明には役立ちそうだが,中止を希望する患者の説明にはあまり役立たない….


引用論文2)Pesola A., et al: Efficacy of diltiazem in variant angina.. Results of a double blind crossover study in CCU by Holter monitoring. The possible occurrence of a withdrawal syndrome. G Ital Cardiol 1987;17:329-336. ABSTRACTへリンク

批判的吟味者 亀井内科呼吸器科クリニック 亀井博三先生 20018

論文のPECO
P: Variant Anginaの患者
   Inclusion Criteria : 3回以上の1mm以上のST上昇の心電図変化を伴う狭心症患者(胸痛の有無は問わない)
   Exclusion criteria : 重症の心室性期外収縮、3ヶ月以内の心筋梗塞、心不全の既往、弁膜疾患、伝導障害、75歳以上
E : diltiazem 60mg*4/day*3days
C: placebo *3days
O : Holter monitor
による急性心筋虚血のエピソードの回数30秒以上続く、0.1mV以上のST上昇が1分以上観察される
エンドポイントがHolter上のエピソード回数になっている点について,このエンドポントは代用エンドポイントと考えられることが指摘された.しかしHolter上のエピソードをエンドポイントにしているが故に,症例数が少なくてもエピソード数が多かったので,有意差が出たと思われる.
Study design :double-blind randomized cross over study
本来diltiazemの効果を見るために計画されたstudyreboundoutcomeの一つとして検討したもの。患者の必要数についての検討はなし.10人の患者が参加した(男8名、平均年齢60±11歳)が選択の過程が不明。選択バイアスの可能性について検討できない。
Intervention(D: diltiazem, P: placebo)
Run-in 3daysその後D1P1D2P2もしくはP1D1P2D2randomized
各期間は3日(carry-over effectを考え決定)。Holter心電図は各期間の3日目に施行
ReboundPで始まるグループはP1 vs P2Dで始まるグループはrun in period vs P1 and P2で見ているが果たして妥当な方法か?
1.結果は信頼できるか?
(ア)  研究対象のすべてが結果に反映されているか?
Diltiazemからplaceboの段階で狭心症が悪化し2名脱落、うち1名は急性心筋梗塞発症。しかし解析には含まれているので“はい”。
(イ)  無作為割付
はい。しかし方法について記載無し。Allocation  concealment不明
(ウ)  盲検化
 はい?double blindと書いてある。具体的には記載無し。
(エ)  患者背景
cross-over  studyなので同一。患者の罹患歴不明。CCUにおける研究である点がシナリオの背景と異なる。
(オ)  研究対象以外の取り扱い
ニトロの舌下投与は許可と書いてあるがその他の薬剤の使用については記載無し。
2.結果はどのようなものか?
(ア)  結果の大きさと正確さ( 95%CI記載無し)
P1D1P2D2群について(n=6
P1 P2狭心症のエピソードの数の差は15.2±5.4 ( 95%CI 0.21−30.2)
95%CIは0を含まず、P2の狭心症エピソードはP1より多いと結論づけられるが、95%CIの幅が広く正確な見積もりとは言えない。症例数が少なすぎる。
心筋梗塞症例が1例見られる。
3.結果は臨床に適応できるか?
(ア)  Shroederらの研究(引用論文3)と異なる結論であった
1.研究対象の違い(CCU vs Outpatient)
 2.Study designの違い
    a. 2週間vs 3day
    b.  症状vs Holter
両研究とも服薬に対するadherenceの管理に言及していない。これは結果に影響を与える要素と思われるが?
いずれにせよどちらも症例数が少なく、本来reboundを見ることがpriamry endpointではない研究である。
本研究は患者の平均年齢はシナリオの患者に近い。Reboundの存在の可能性があるという結論、1例の急性心筋梗塞のエピソードは投薬の中止をためらわせる結果ではあるが…?

引用論文3)Shroeder JS., et al: Absence of rebound from diltiazem therapy in Prinzmetal’s variant angina. J Am Coll Cardiol 1985;6:174-178  ABSTRACTへリンク

批判的吟味者 亀井内科呼吸器科クリニック 亀井博三先生 20018

論文のPECO
P : 2週間に少なくとも5回以上の狭心症発作を起こしたvariant anginaの患者
     Inclusion criteria : 安静時もしくは通常の生活での狭心症発作かつ胸痛発作時の心電図でST上昇1mm以上が1回以上記録されていること
     Exclusion criteria : 30歳以下、70歳以上、長時間作動型冠拡張剤が必要な患者、ニトロ舌下錠以外の抗狭心症剤が必要
E : Diltiazem 120mgもしくは240mgからの中止
C : placeboから placeboへ
O : rebound
 (患者の日記による狭心症発作、舌下錠の使用頻度からみたrebound)
  Reboundの定義:無投薬のベースラインでの狭心症発作より多いplacebo期における狭心症発作(予防投薬の無いことによる狭心症発作とreboundを区別するため)
Study design :
Variant  anginaに対するdiltiazemの効果を見たrandomized , multiple  crossover ,multiclinic studyの参加者48( Schroeder JS et.al . Multiclinic Controlled  Trial  of  diltiazem  for  Prinzmetal’s angina. Am J Med 1982 ; 72 : 227-232 )のデータをrebound現象にスポットを当て後から解析したものでreboundをみるためにdesignされたものではない。
13人のinvestigatorがそれぞれの施設から参加(施設数:不明)。Inclusion  criteriaに合致した患者68名がsingle-blind  placebo  periodにエントリー。うち9名がプロトコール違反および狭心症が不安定なため脱落。58名がdouble blind phaseへ進んだ。うち11名がデータ不備およびプロトコール違反で脱落、残り48名についてのみ解析。

Variant anginaの診断にCAGが含まれていないので器質的冠動脈狭窄のある患者が含まれているかも知れない。Variant anginaは器質的冠動脈狭窄が存在しても良いが、前回の予後の論文から判断すると器質的狭窄の有無は結果に影響を与える因子になりうる。

Reboundの定義が患者の自己申告によるため、過小評価もしくは過大評価の可能性がある(測定バイアス)。無症候性冠動脈れん縮の可能性を考えるとむしろ過小評価の可能性が高い?

必要な症例数の見積もりはなされていない。
Intervention : baseline placebo期間(2週間)につづいて,diltiazem(120mg)2週間服用の後,placebo2週間服用,さらにその後また2週間diltiazem(後半のdiltiazamは240mg)内服,その後placebo2週間内服する群(これをDPDPと略す),以下同様に DPPD, PDPD , PDDPの4群にrandomize.どの群でもdiltiazemの用量は,前半は120mg,後半は240mg.

1.結果の信頼性
(ア)  研究対象のすべてが結果に反映されているか?
いいえ:最初にエントリーされた59名のうち脱落例11名のデータが反映されていない。さらに46名のデータが解析されているが2名が解析に反映されなかった理由は不明
(イ)  無作為割付
おそらくはい。しかし記載はない。Allocation  concealmentについても不明
(ウ)  盲検化
おそらくはい:double  blindと書いてあるが詳細は不明。
(エ)  背景因子
crossover studyなのでmatched pair analysisにおいては同一患者。しかしDaP割付群とPaP割付群でreboundを比較しているのでその背景因子の差が無いかどうか知りたい。
(オ)  対象の取り扱いは同等か?
はい。Diltiazem以外はニトロの舌下投与のみ許可服薬のコンプライアンスに関する記載はない
2.結果はどのようなものか
(ア)  結果の大きさおよび正確さ
14days data
                    DからP vs PからP
                    RR 0.71 (95%CI 0.14 から3.7 )
                    ARI -5.4% (95%CI -31.1%から20.3%)
3days data(2週間平均ではreboundを見逃しているかも知れないので)
                    DからP vs PからP
                    RR 1.6 (95%CI 0.31から 8.3)
                    ARI -7.5% (95%CI -18.4%から-33.4%)
Matched pair
                    Rebound following D vs rebound following P
                    OR 0.89 (95%CI 0.48から 1.77)
                    ARI -2.1% (95% CI-21.9から17.6%)
RRは1を含み、ARIは0を含むのでdiltiazemの中断によるreboundはなさそうという結論になる。しかし95%CIは幅が広く正確な見積もりとは言えない。尚、中止により急性心筋梗塞を来した患者はいなかった
3.結果の臨床への適応
 diltiazemの中止は短期的にはreboundを招かないという結論であったが、reboundの定義から狭心症の評価が過小評価になっている可能性がありこれは両群の差を少なくする方向に働くバイアスになっている可能性がある。又少ない症例数による?エラーの可能性もある。又、研究はreboundを評価するためにdesignされたものではない。
(ア)  自分の(シナリオの)患者にあてはめることができるか。
背景因子が示されていないのでシナリオの患者との相違が不明、又患者の罹病期間も不明なので判断が難しい。ただ上に書いた理由でこの論文だけでdiltiazemの中止の決定は困難
(イ)   すべての重要な転帰が検討されているか
心筋梗塞、不整脈なども検討されているようだが差は無し。
(ウ)   治療による益は害やコストを上回るか?
コストに関する記載は無し。
この研究の一番の問題点は,各群15-16例と症例数が少なく,かつ背景因子について記載がないこと.患者の病期は様々で2群間のばらつきが多いことも予測される.症例が少ないと折角ランダム化しても交絡因子が入り込んできてしまう可能性がある.

以上1)〜3)論文の批判的吟味のまとめ

論文1)は異型狭心症患者の予後を検討したコホート研究で,生存群および心筋梗塞を起こさずに生存(アウトカム)しているものの背景について論じられ,Ca拮抗剤使用,CAGで冠動脈疾患のないもの,発作中にST変化が広範囲でないものなどにアウトカムを生じずに長期生存している者が多いことが分った.
論文2)CCU入室中の異型狭心症10例を対象として,ジルチアゼムの効果を見るためにcross-over法でRCTを行い,reboundもエンドポイントの一つとして検討しもの.症例は少ないが,Holter心電図から狭心症発作エピソード回数を調査し検討しており,Holterを利用したため狭心症エピソードをかなり多く捕らえており,10例でも偽薬期と実薬期でのエピソード回数に有意差が見られた(回数の差は15.2±5.495%CI:0.21-30.2).さらに偽薬期の症例では一例心筋梗塞を発症した.
論文3)は異型狭心症を対象としてジルチアゼムの治療効果を見るRCTを利用して,偽薬期と実薬期の症状による発作頻度から,Withdrawal syndrome(rebound)の有無を論じた論文であった.48人についての検討であったり,症状回数を狭心症のreboundの評価対象にしているため,?エラーおよび過小評価の可能性が考えられた.


Step 4 患者への適応

以上の討論の結果を踏まえて,これらのEvidenceを利用してどのように患者の治療方針を組み立てるか,この日TV会議に参加していた6つのサイト,9名の医師に質問が廻った.下記に意見を示す.
1)Ca拮抗剤を続けられる人には続けるように薦める.止めさせるには勇気がいる.4
2)Ca拮抗剤を止めると一人でも死亡する可能性があるなら出し続ける.1名.これに対して,ではヘルベッサーRを飲みつづけた場合,その副作用で死亡する可能性は無いだろうか.またその可能性があるとき,止めて心筋梗塞で死亡する確率と,飲み続けてヘルベッサーRの副作用で死亡する確率のどちらの可能性が大きいのかと言う指摘があった.
3)狭心症で3-4剤飲んでいる患者に対して,1年に1剤くらいづつ減らして行ったとして,ヘルベッサーRは最後まで切れにくい.1
4)誘発試験陽性の人は,飲みつづけさせる.1
5)異型狭心症の予後は良さそうだが,Ca拮抗剤は続けた方が良さそう.2名.

結論

比較的罹病歴の長い異型狭心症の患者を対象としたCa拮抗剤のwithdrawal study(薬剤を中断した場合,疾患の予後などがどのようになるか検討した研究),見つからなかった.異型狭心症の長期予後をみたコホート研究では,Ca拮抗剤内服者で長期予後が良いと言う結果であった.異型狭心症急性期にジルチアゼムと偽薬を比較した研究では,ジルチアゼムにおいて狭心症エピソードの減少を認めた(しかも偽薬群では心筋梗塞が発症している)
このようなことから,罹患して4年経過しCa拮抗剤の中止を希望するシナリオ症例にちょうどふさわしい論文は見つからなかったが,結果を患者に説明し,出来ることならCa拮抗剤を継続するよう説明することとした.

患者への説明・語りの結果

過日,再診された折に下記のように説明した.
「罹患して4年経過しCa拮抗剤の中止を希望するあなたにとって,ピッタリ当てはまる研究はみつからなかった.しかし,異型狭心症ではCa拮抗剤の内服をしている人の予後が良いこと,急性期ではCa拮抗剤を中止すると発作が増え,中には心筋梗塞を起こすこともあるとする研究がみつかった.このようなことから私としては,Ca拮抗剤の継続をお勧めします.」

この説明に対して患者の意見を求めたところ,下記のように答えられた.
「普段から健康管理に注意している方ではないし,タバコも止められない.せめてこのまま狭心症発作のない今のままの生活が営みたいから,今日の話を聞いてヘルベッサーRを続けたいと思う.1ヶ月に1回,診療所に通う時間も費用も,大した負担に感じていない(診療所で900/月,薬局で800/).一番心配なのは10年とか20年ヘルベッサーRを飲み続けた場合の害.でも,あまり害については聞いたことはないので,とりあえず心配はしていない.以前検査を受けた総合病院の循環器科の主治医も,70-80歳の異型狭心症はないので,その年齢になれば止められるかも知れないと言っていた覚えがある.」

このように患者の理解を得,ヘルベッサーRを継続内服することとなった.

2001106日記

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