総合コメント ・ 水痘症ワクチンとアシクロビルの予防効果の比較

総合コメント
ワクチン,アシクロビル2つの予防法があることが分かった.ワクチンについては過去多くの研究で効果が検証されており,Updated guidelines from the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) でも予防をするならVaricella zoster immune globulinではなくて水痘ワクチンを推奨している.なぜなら後者では一過性の効果しかなく,抗体が獲得されないからである.それに加え,浅野らの研究によりアシクロビルによる予防と言う選択肢が加わった.しかしアシクロビルの研究はワクチンに加えてはるかに少なく,エビデンスの厚みと言う点でワクチンに軍配は上がるのであろう

次に二つの研究ともコントロ−ルにプラセボーを用いていなかった.テレビ会議でもそれが故に少々エビデンスレベルに問題があるのではと話題になったが.しかし,同居家族に水痘症が発症した場合,未感染小児に予防を行わない場合,非常に高い確率で感染するようである.一方,過去の研究によりワクチンと言う予防法があることが分かっているので,プラセボーを用いたコントロールを設定することは倫理上困難だったのではないだろうか.やはりこの辺が現時点でのBest available evidenceと言うことになろう
患者への語りとその後
 

 早速お電話にて来院していただき,次のようにお話した.「ご希望された水痘ワクチンにつきましては,接触3日もしくは5日以内に接種すれば感染予防が可能と分かりました.しかし残念ながら今は接触9日目に入り,ワクチンによる予防ができる時期は逸しているようです.他に方法なないか皆で検討してみたのですが,4歳のお姉さんの治療で使ったアシクロビルという抗ウィルス剤を7日目から9日目に開始し,1週間継続すると84%の予防効果があるとする研究がありました.ワクチンほど多くは行われてはいないのですが,1日4回飲んでいただかなくてはいけませんが,その方法を試すと言うのはいかがでしょうか?」

 お母様はにこやかに,「分かりました.試してみたいと思います」とおっしゃい,早速そのようにする運びとなった.内服7日目に左眉毛の部分に小さなピンクの発疹が出現したが水泡形成もなく,10日目には消失した.もちろん発熱,副作用もみられなかった

 10日目にお母様に感想をお尋ねした.「アシクロビルによる予防で,非定型な発疹が一個みられただけで,水痘症までは発症せず経過したようですが,この方法でよかったでしょうか?」.お母さまは「ええ,良かったと思います」と答えられましたが,その表情には笑みはみられないため,こちらからさらにお尋ねしてみた.「ワクチンによる予防の方が良かったのでしょうか?」

 お母様は「実はワクチンによる予防がやはりありがたかったです」と答えられた.インターネットでどれほどの情報を入手されたかは分からなかったが,人とと言うものは,"自分で入手した情報を重んじるだなぁ〜”と感じた次第であった
こんな顛末でした.みなさまいかがでしょうか.薬剤についての使用法,あるいは説明法など貴重な皆様のご意見を是非お待ちしております  

水痘ワクチンとアシクロビルの予防効果の比較
今後同じようなケースと遭遇した場合,二つの予防法について熟知し選択肢を提案できるよう,文献25と文献19を取り寄せ水痘症ワクチンとアシクロビルの予防効果の比較を行った
文献25 Postexposure varicella vaccination in siblings of children with active varicella. Salzman MB; Garcia C. Pediatr Infect Dis J 1998 Mar;17(3):256-7.
研究方法 非ランダム化比較試験
対象患者 水痘症を発症した患者の家族で水痘症の既往がないもの.成人に対しては抗体を検査し既往を調査.小児には抗体検査は未施行
治療法 index caseが発症して来院した場合,何日目か問わず水痘ワクチンを接種.平均年齢5.7才
比較 index case (多分,水痘症で来院する原因となった元の症例のこと.平均年齢8.4才)
アウトカム 水痘症の発疹が出現した場合の5日目の発疹の数
追跡率 13人にワクチンを接種し,3人と連絡が取れなくなった.したがって追跡率は77%
結果
ワクチン接種 (10人) ワクチン未接 (7人)
水痘疹の発症 5人(50%) 7人(100%)
発疹が出現してから5日目の水痘疹の数 13.4* 245
* ワクチン接種と未接種を比較した場合 p=0.018
水痘症を発症しなかった5人はいずれも初感染症例が発生してから3日以内にワクチンを接種してあった
コメント 同居家族に水痘症が発症した場合,未発症家族に水痘ワクチンを接種すると発症を半分に減じ,発症しても発疹数は少ない.3日以内に接種できれば,さらに高い効果を期待できる

文献 19 Postexposure prophylaxis of varicella in family contact by oral acyclovir.Asano Y et al. Pediatrics 1993 Aug;92(2):219-22.
研究方法 非ランダム化比較試験
対象患者 同居家族が水痘症を発症した小児で,水痘症の既往のないもの
治療法 接触してから7-9日目にアシクロビル40-80mg/kgを1日4分割して連続7日間投与
比較 接触したがアシクロビルを投与しなかったage matched control subjects
アウトカム 発疹の数や発熱などの臨床所見
追跡率 記載なし
結果
アシクロビル(25例) コントロール(25例)
水痘疹のGrade
  0 21例(84%) 0
  1 3 0
  2 1 3
  3 0 6
  4 0 10
  5 0 6
小水疱形成* 1 25
38℃以上の発熱* 1 17
* P<0.01
Grade0とは発疹なし.1は1-10,2は11-50,3は51-100,4は101-500,5は501以上

コメント この研究はcontrolの設定法について記述がない.多分アシクロビル投与を希望しなかったものか,histrical contolであろう.それにしてもアシクロビル予防的投与の効果は84%に上った.水痘症抗体も同じく84%で獲得されている.ワクチンにすぐるとも劣らない効果が期待できそうである.ただし1日4回,7日間内服を続けなくてはいけないので,いやがるお子さんには投与しにくいことは容易に想像できる