EBMトップページへ戻る

テーマ  2cm以下の早期肺ガンに縦隔リンパ節廓清は必要か

 

シナリオ
私は診療所の医師である.2001年9月のある日,職員検診の胸部レントゲン写真を見ていた所,74歳の女性職員の右下肺野に1.5×1.5cmの非常に淡い銭型陰影を認めた.ギョッと思い胸部CTを検査センターにオーダーしたところ,矢張り右肺中葉に1.6×1.7cmの胸膜陥入像を伴う高分化型腺ガンを疑わせる結節影を認めた.肺門縦隔リンパ節腫大は認めず,胸部CT上その他の異常影は認めなかった.総合病院を紹介し,頭部・腹部CT,骨シンチグラフィーが行われ全て正常であった.気管支鏡ではガン細胞は得られなかったが,臨床病期1a期の肺ガンが考えられた.

全身状態が良好なので,外科的切除が望ましい治療と考えられたが,紹介した先の総合病院では縦隔リンパ節廓清は行っておらず,肺葉切除のみが予定されている術式だと言う.10年以上前に国立がんセンターで研修したときの知識では,肺ガンの手術と言えば縦隔リンパ節廓清も行うものだと思っていた私は,紹介先の病院では縦隔リンパ節廓清をしないと言うことを聞いて,最近の知見について調べてみることとした.

 

Step1 PECOの設定
P  臨床病期1a期の肺ガンを患った74歳の女性
E 手術において縦隔リンパ節廓清を行う場合
C 行わない場合
O 長期予後はどうか

 

Step2 情報収集
情報源  : Cochrane library 2001,issue3 および Up To Date 2001,Vol 9,No 2

検索用語 :  carcinoma-non-small-cell-lung(MeSH), lymph-node-excision(MeSH)

収集論文 : Systematic lymph node dissection for clinically diagnosed peripheral non-small-cell lung cancer less than 2 cm in diameter. Sugi K. et al. World J Surg. 22,290-95,1998. Abstractへリンク
Step3 批判的吟味

Critically Appraised Topics (CATS)

結論            2cm以下の臨床病期1期の肺癌では,肺門縦郭リンパ節郭清は不必要

簡潔なサマリー 2cm以下の臨床病期1期の肺癌では,肺門縦郭リンパ節廓清を行ってもしなくても,生存率は同じである.

引用文献:Systematic lymph node dissection for clinically diagnosed peripheral non-small-cell lung cancer less than 2 cm in diameter. Sugi K. et al. World J Surg. 22,290-95,1998.

筆頭著者FAX/E-mail : not available
検索用語 : carcinoma-non-small-cell-lung(MeSH), lymph-node-excision(MeSH)
Source : Cochrane library 2001,issue3
研究方法
方法       RCT
・対象患者     手術前画像診断で腫瘍径2cm以下の臨床診断1期肺ガン.画像診断は胸部XP,胸部・腹部・頭部CT,骨シンチ
・除外基準      癌の既往のある者,CTで1cm以上の肺門縦郭リンパ節腫大のあるもの
・コントロール群(N=56,脱落を除いた患者数=56):肺葉切除と葉間・傍気管支リンパ節郭清.縦隔リンパ節はサンプリングのみ,隔清せず. 
・治療群     (N=59,脱落を除いた患者数=59):上記+肺門縦郭リンパ節隔清あり
結果(Evidence)

アウトカム

追跡期間

CER

EER

RRR

ARR

NTT

死亡

3年

10.8%

11.9%

10.1%

1.1%

91

死亡

5年

16.1%

18.6%

15.5%

2.5%

40

 

コメント:
1.症例数は少ないが,コントロール群でむしろ予後が良い傾向があり,このまま症例を増やしても治療群で予後が改善する可能性は,少ないであろう.
2.縦郭リンパ節郭清を行うことにより,手術時間の延長や術後のADL悪化も多くなる.このようなことから,2cm以下の臨床病期1期の肺癌では,肺門縦郭リンパ節郭清を行う必要はないであろう.

吟味者:伊藤伸介 2001年10月11日

Step4 患者への適応
 この論文の対象は,自験症例にピッタリである.内的妥当性,外的妥当性ともに十分満足した私は,この論文の結果から,臨床病期1a期である自験症例に対して縦隔リンパ節廓清を行わない総合病院呼吸器外科での手術を,このまま予定通り進めることを患者にお勧めし,術後の確定診断を待つこととした.
この患者のその後
この患者の健康診断で陰影が見つかったのは,2001年9月であるが2004年10月現在再発の兆候は見られていない.今後も慎重に経過観察を続ける予定である

ご意見(フィードバック)をお待ちしております