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テーマ  小児のインフルエンザ患者に抗生物質を併用するか

このテーマは,2001年3月19日,4月16日に愛知県臨床疫学研究会のTV会議で検討された結果に基づいてまとめました.この作業の詳しい全体像は,こちらをご覧下さい
シナリオ

 2月のある日,保育園に通園している2歳の幼児が,前夜からの急な発熱で受診した.それまで特記すべき既往症はなく,前日まで至って元気であったと言う.時々咳が出るが,鼻水,下痢,あるいは耳を触るなどの症状はなく,軽い咽頭赤発が見られた.胸部聴診にも異常はみられず,体温は39.2度であった.食欲と元気は低下していると言う.折からインフルエンザが流行しており,この症例もそのように思われた.以前,小児感染症の講演会で「インフルエンザでは細菌2次感染が多いので,抗生物質を併用した方が良い」と聞いた記憶があったが,果たして抗生物質を併用すべきか疑問に思った私は,調べてみることとした.

Step1 PECOの設定

P:インフルエンザに罹患した小児(2歳)
E: 抗生物質を投与する場合
C:しない場合
O:罹病期間の改善は早いか,あるいは合併症の頻度は低いか

Step2 情報の検索

情報源  : Cochrane library 2000,issue4 および Clinical evidence 2000, issue 4
検索用語 :   influenza-A-virus-human(MeSH) AND antibiotics(MeSH)
収集論文 : 
Maeda S, Yamada Y, Nakamura H, Maeda T.: Efficacy of antibiotics against influenza-like illness in an influenza epidemic. Pediatr Int. 1999

Step3 批判的吟味 

Critically Appraised Topics (CATS)

引用文献:Efficacy of antibiotics against influenza-like illness in an influenza epidemic. Maeda S et al. Pediatrics International.  41; 274-276. 1999.
Abstruct
 AIM: To determine if an antibiotic reduces the incidence of complications associated with influenza-like illness during an influenza epidemic. METHODS: During the outbreak of influenza in Kobe in 1998, 85 patients suffering from an influenza-like illness were randomly assigned to two groups. Patients received placebo or sultamicillin orally for 4 days. The incidence of complications of influenza-like illness were compared and statistically assessed. RESULTS: There was no difference in the duration of fever or the incidence of acute otitis media. However, the incidence of pneumonia was significantly lower in the sultamicillin group than the placebo group (2.4 vs 16.3%, P < 0.05). CONCLUSION: Sultamicillin reduced the incidence of pneumonia associated with influenza-like illness during the influenza epidemic. This result suggests that antibiotics can reduce the rate of pneumonia associated with influenza.

結論  :            小児のインフルエンザでは,sultamicillin(SBTPC)を 30mg/kgBW(max800mg/day)分3併用すると,肺炎の合併が少ない
簡潔なサマリー:インフルエンザと臨床診断した4ヶ月以上11歳以下の小児では,初診時にSultamicillin(SBTPC)を 30mg/kgBW(max800mg/day)分3を併用すると,肺炎の合併が少ない.NNTは7(95%CIは4−48)
筆頭著者FAX/E-mail : not available
検索用語 :influenza-A-virus-human(MeSH) AND antibiotics(MeSH)
Source : Cochrane library 2000,issue4

研究方法

方法       RCT
・対象患者     1998年1〜2月 インフルエンザ流行中に受診した,下記のインフルエンザ診断基準を満たした4ヶ月から11歳の小児
     1)腋下37.8℃以上の熱発と咳
     2)咽頭・喉頭痛
     3)患者の周囲に同様の症状の患者が少なくとも2人以上いる
     4)白血球数 9000以下、CRP 2.0以下
・除外基準      先天性疾患患者、慢性疾患患者、1997年中にワクチン接種したもの,この研究に影響を及ぼす可能性のある治療を受けているもの
・コントロール群(N=43,脱落を除いた患者数=43): sultamicillin(SBTPC)投与しない.併用薬については記載なし
・治療群      (N=42,脱落を除いた患者数=42):上記治療にSBTPCを 30mg/kgBW(max800mg/day)分3を併用

結果(Evidence)

アウトカム 追跡期間 CER EER RRR or RRI ARR or ARI NNT or NNH (95%CI)
肺炎※ 2〜3日毎
何日までかは記載なし
16.3% 2.4% 85.2% 13.9% 7.1  (3.8〜47.6)
下痢(副作用) 2〜3日毎
何日までかは記載なし
4.6% 11.9% 61.3% 7.3% 13.7 (5.3〜23.3)

※プラセボ群で見られた肺炎7例のうち6例(86%)はCRP,WBCの増加なくウイルス性と考えられた.介入を必要とせず経過観察のみで治癒した.残り1例は細菌性肺炎と考えられ、5日目より抗生物質を投与し治癒した.SBTPC群の1例はCRP,WBCの増加なくウイルス性と考えられた

コメント
 治療群で肺炎の合併が少なかったが,コントロール群で見られた肺炎も86%はウィルス性であり,著者も考察の中では,基礎疾患に気管支喘息や腎炎など,細菌感染を合併すると重症化し易い合併症を有したインフルエンザ患者以外は,SBTPCの併用を推奨しないとしている.
 ウィルス性肺炎を除外すると,コントロール群で見られた細菌性肺炎は1例のみで,SBTPCを併用する意義は無くなってしまった.これを考慮すると,小児のインフルエンザにSBTPCを併用する意義はないと考えられる.
 Abstractでは,インフルエンザにSBTPCを併用すると肺炎の合併頻度が低下するとしている.本文中の考察に見られる記載と差異が見られた.
                                 吟味者 伊藤伸介 2001年 4月12日


Step4 患者への適応
論文の対象となった症例と自験症例は一致し,外的妥当性には問題はなかった.しかしこの論文には,Abstractの記載と本文中の記載に差異が見られると言う不可解な点が見られた.批判的吟味を行い自分で解釈し直すと,SBTPCの併用は肺炎の予防に十分な効果を発揮するとは考えられなかった.副作用としての下痢についてもNNH13であった.この論文より,小児のインフルエンザの診療に当たってSBTPCを含む抗生物質を初診時から併用する必要はないと考えられた.
まとめ

1. インフルエンザに処方するなら,アマンタジンやザナミビルであろう.小児のインフルエンザや風邪に,抗生物質を使用する根拠となるEvidenceは,これら抗ウィルス剤の有用性に関するEvidenceに比較して,はるかに弱いEvidenceしか存在せず,このパワーの小さな根拠に基づいて投与するか否か判断するしかない.

2. Maeda 論文のAbstractでは,インフルエンザにおける抗生物質の使用は肺炎の頻度を低下させると結論しているのに,実際の論文の結論では,合併症を起こしやすいハイリスク群にしか勧めないとしている.結構穴があって面白い論文であった.

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