EBMトップページにもどる

テーマ  小児のインフルエンザ患者に抗生物質を併用するか

                  −治療の根拠とするには見つかったEvidenceのパワーが小さい−
                       −羊頭狗肉? 論文の結論が抄録と本文で異なる−

シナリオ

 2月のある日,保育園に通園している2歳の幼児が,前夜からの急な発熱で受診した.それまで特記すべき既往症はなく,前日まで至って元気であったと言う.時々咳が出るが,鼻水,下痢,あるいは耳を触るなどの症状はなく,軽い咽頭赤発が見られた.胸部聴診にも異常はみられず,体温は39.2度であった.食欲と元気は低下していると言う.折からインフルエンザが流行しており,この症例もそのように思われた.以前,小児感染症の講演会で「インフルエンザでは細菌2次感染が多いので,抗生物質を併用した方が良い」と聞いた記憶があったが,果たして抗生物質を併用すべきか疑問に思った私は,調べてみることとした.

 

Step1 PECOの設定

シナリオから下記のようなPECOを設定した

  P:インフルエンザに罹患した小児(2歳)
  E:抗生物質を投与する場合
  C:しない場合
  O:罹病期間の改善は早いか

  あるいは 

  P:小児
  E:インフルエンザでは
  C:カゼ症候群と比較して
  O:細菌2次感染の頻度は高いか

Step2 情報の検索

以上のようにPECOを設定した私は,20012月のある日,情報の収集を行った.

 まず,手元にあったClinical evidence 2000 issue 4の索引で,Influenzaについてチェックしてみた.するとInfluenza vaccinepneumonia preventionについての記載はあったが,Influenzaと抗生物質についての記載は見つからなかった.そこでとりあえずColdsと抗生物質について調べてみたところ,対象は成人であるがバッチリ記載が見つかった(p881-882).そこには「合併症を伴わない急性呼吸器感染症にはには無効(p881-882)」だが「H influenzae, M cattararis, S pneumonia感染が痰培養で陽性なら有効NNT (p882)」とされていた.そこでまずcommon coldにおける抗生物質の有効性を確認するために,引用されていた下記の論文を取り寄せることとした.

Kaiser L et al.: Effect of antibiotic treatment in the subset of common-cold patients who have bacteria in nasopharyngeal secretions, Lancet 996;347:1507-10.
 次に,Cochrane library 2000 issue4を用い,検索式influenza-A-virus-human(MeSH) AND antibiotics(MeSH)でチェックした所,下記の1論文が出てきた.抄録を見たところインフルエンザウィルス感染と抗生物質投与についての論文で,今回のテーマにピッタリであったため,取り寄せることとした.ちなみにこれ以外にも,下記に示すPubmedで用いた検索式での検索を試したが,この検索式以外では一つも論文がヒットしなかった.

Maeda S, Yamada Y, Nakamura H, Maeda T.: Efficacy of antibiotics against influenza-like illness in an influenza epidemic. Pediatr Int. 1999 Jun;41(3):274-6.
 最後に,Pubmedでの検索を行った.今回のテーマではインフルエンザと細菌2次感染と言う「予後もしくは疫学」との関連も含む検索になるので,治療について詳しいCochrane libraryでは得られなかった新たな関連論文がPubmedから収集されないか期待した.ちなみにdetailで小児を予め設定して検索することもできるが,成人を対象とした論文でも,興味深いものがあれば知りたいと思い,あえて年齢制限を設けずに検索することとした.まずインフルエンザの2次感染の頻度を知りたいと思い,単純にinfluenza AND superinfectionと言う検索式で検索したところ,すんなり24と言う適当な数の論文がみつかったので,題名と抄録を読んでいった所,インフルエンザの2次感染の頻度や治療について触れている2論文がみつかった.

Jarstrand C, Tunevall G.: Colonization and clinical superinfection with gram-negative bacilli in influenza. Scand J Infect Dis. 1976;8(4):229-35.
Jarstrand C, Tunevall G. The influence of bacterial superinfection on the clinical course of influenza. Studies from the influenza epidemics in Stockholm during the winters 1969-70 and 1971-72. Scand J Infect Dis 1975;7(4):243-7
 次に2次感染と言う用語について,superinfectionではなく他の用語を用いているために.この検索式では漏れている論文があることを懸念し,かつて読んだ論文で日本語の2次感染に相当する意味で使われていると思われた用語をメモしておいたものをORで含め,detailhumanに限定し,再度検索してみた.検索式はinfluenza AND (superinfection OR "secondary infection" OR "suppurative complications")である.この検索式では131も論文が検索されてきてしまったため,Clinical queriesprognosisepidemiologyを指定して検索したところ,0件になったしまった.そこで苦肉の策としてantibioticsAND検索した所,8つにまで絞り込めたので目を通すことができ,その中から下記の論文を選択した.

Schaberg T, Lode H. :Influenza infection and antibiotic therapy. Dtsch Med Wochenschr. 1993 Oct 8;118(40):1464. (ドイツ語)
Leedom JM.:Pneumonia. Patient profiles, choice of empiric therapy, and the place of third-generation cephalosporins. Diagn Microbiol Infect Dis. 1992 Jan;15(1):57-65. (Review)
 最後に最も単純な検索式を試すことにした.influenza AND antibioticsである.思った通り771もの論文が検索されて来たので,Clinical queriesを利用してcategorytherapyを,emphasisspecificityを指定してキーワードにinfluenza AND antibioticsを入れて検索し直した.その結果論文は13まで絞り込めたので,題名を見て行ったところ唯一適切であったのは,Cochran libraryで得られたのと同じ下記の論文であった.Maeda S, Yamada Y, Nakamura H, Maeda T.: Efficacy of antibiotics against influenza-like illness in an influenza epidemic. Pediatr Int. 1999 Jun;41(3):274-6.

 後日談 : Clinical queriesprognosisepidemiologyを指定して行った検索で,sensitivityではなく,specificityを指定して行った.検索式はinfluenza AND (superinfection OR "secondary infection" OR "suppurative complications")である.その結果は若干の論文が引っかかってきたが,題名等から適切な論文は上記の検索結果と変わらなかった.

 以上の作業で得られた論文のうち,インフルエンザと抗生物質につてい論じられているMaeda Sの論文と,カゼ症候群と抗生物質について論じられているKaiser Lの論文について討論することとした.それ以外の論文も取り寄せて検討したが,コントロールを持たない検討であったり,reviewであったため採用を中止した.

Step3 批判的吟味 

平成13年4月16日(月)愛知県臨床疫学研究会のTV会議で,下記の論文について批判的吟味の討論を行った.

 引用論文Efficacy of antibiotics against influenza-like illness in an influenza epidemic. SACHIKO MAEDA et al. Pediatrics International.  41; 274-276. 1999.
                                       批判的吟味者  伊藤クリニック  伊藤純子

Abstruct

AIM: To determine if an antibiotic reduces the incidence of complications associated with influenza-like illness during an influenza epidemic. METHODS: During the outbreak of influenza in Kobe in 1998, 85 patients suffering from an influenza-like illness were randomly assigned to two groups. Patients received placebo or sultamicillin orally for 4 days. The incidence of complications of influenza-like illness were compared and statistically assessed. RESULTS: There was no difference in the duration of fever or the incidence of acute otitis media. However, the incidence of pneumonia was significantly lower in the sultamicillin group than the placebo group (2.4 vs 16.3%, P < 0.05). CONCLUSION: Sultamicillin reduced the incidence of pneumonia associated with influenza-like illness during the influenza epidemic. This result suggests that antibiotics can reduce the rate of pneumonia associated with influenza.

  この論文に関しては,TV会議で十分討論された.そのとき指摘のあったコメントについて網掛け  をした.

論文のPECO

  P インフルエンザに罹患した小児
  E 初診の段階で抗生物質(sultamicillin)を投与すると
  C しない場合に較べて
  O 有熱期間,および肺炎/中耳炎/下痢/発疹の頻度はどうなるか

論文の概要


  対象          1998年1〜2月 インフルエンザ流行中にRokko Island Hospital受診者
  患者の採用基準     下記のインフルエンザ診断基準を満たした4ヶ月から11歳の小児
  除外基準                   先天性疾患患者、慢性疾患患者、1997年中にワクチン接種したものなど
  インフルエンザ診断基準(CDCの診断基準を参考にした)
     1)腋下37.8℃以上の熱発と咳
     2)咽頭・喉頭痛
     3)患者の周囲に同様の症状の患者が少なくとも2人以上いる
     4)白血球数 9000以下、CRP 2.0以下
  方法:ランダムにプラセボ群とsultamicillin(SBTPC)投与群に登録し4日間薬剤を投与(SBTPC: 30mg/kgBW(max800mg/day)分3)
       2〜3日おきに受診させ経過を見た.必要時、胸部単純X-P、採血(CBC,CRP)、培養検査を実施した


A.結果は信頼できるか

1.治療への割り付けはランダムに行われたか?ランダム化のリストは隠されていたか? 
  はい/いいえ. ランダムに割り付けたとの記載はあるが、リストのconcealmentについての記載はない

2.フォローアップは十分長く完全であったか? intention to treat 解析されているか?
  はい? 表の人数から判断して脱落症例はないようである.ITTもされているようである.

3.患者、治療者、評価者、データ解析者は患者の割り付けについてブラインドであったか?
  判らない.記載なし

p274の左に「placebo-controlled trial」と記載があるので,ブラインドされていたと考えて良いのでは? 「患者の割り付けについてブラインドであったか」と言う点については,隠されていた(concealment)か記載がない.ランダム化のリストがConcealされている方が妥当性が高いと言う論文が,JAMAにある.

4.治療群と対照群は試験の目的である介入以外では同等に扱われたか?
  経過観察中に必要に応じてレントゲンや採血を行っているが、これらが各群にどの程度行われたか不明.割付のブラインド化が行われていないと考えると、治療群と対照群で検査の施行頻度に差が生じた可能性はあると思われる.(主要なアウトカムのひとつである肺炎の診断率に差が出る可能性がある)
この論文内に書かれていないが,知りたいことはないかについて疑問が提示され,2つのサイトから次のように提案があった.自治医大サイトからは解熱鎮痛剤の使用の有無について,Table1に追加検討して欲しかったことについて.作手村サイトからはアマンタジン併用の有無について検討がして欲しかったとコメントあった.しかし1998年には保険適応がなかったので,多分使用されていなであろうと結論された.

5.治療群と対照群の間に試験の開始時に重要な臨床特性において差はなかったか?
  はい.Table 1 を見ると有意差はなく、両群の背景に差はないと思われるが,治療群は対照群と比較して治療開始がややおそいか?

 コラム  Table1をシステマチックに見る方法
  Table1では,患者背景について提示されていることが多い.理想的にはRCTでは,コントロール群,治療群の患者背景は同一であるように割り付けられることが期待される.しかし偶然にせよ両群間に違いが見られた場合,どのように考えればいいのだろうか.
  例えばこの研究では,症状発現から受診(治療開始)までの平均日数について見ると,SBTPC群が1.22日,プラセボ群が0.84日でSBTPC群がプラセボ群に比較して発症から受診までが長かった.治療開始までの日数が長いことと,短いことを較べて,どちらが治療効果を強める方向に働くか,あるいは弱める方向に働くのであろうか.インフルエンザの罹病期間は短いので,恐らく早く治療を開始した方が罹病期間を短くする方向に働くと考えられる.しかも抗生物質に罹病期間短縮効果があるとするなら,早く治療を開始した方が矢張り罹病期間を短くする可能性がある.このようなことを考慮すると,SBTPC群では治療効果を弱める可能性のある発症から受診までの期間がより長い患者群となっており,それでもSBTPC群でより良い治療効果が認められれば,より信頼性が高いことと考えても良いことがTable1から読み取れる.しかしプラセボ群で発症から受診までが短いと言うことは,より重症だから早く受診したことを現しているのかも知れない.後者の場合は,プらセボ群により重症例が多く含まれている可能性があろう.
  もう一つ.この研究のように小規模なものでは,わずかな症例の偏りでTable1に現れる患者背景に有意差を生じることがある.しかし規模が小さいが故,避けがたいことであり,この場合P値で判断せず,実数でみて,患者群に片寄りがあるか自分で判断すると良い.またその偏りについては上記のように判断することが,名郷先生から指摘された.
B.結果はどのようなものか
Evidence table
Event

Placebo n = 43

SBTPC  n = 42

p

RRR or RRI*

ARR or ARI*

NNT or NNH* (95%CI)

熱発期間(日)

3.61 ± 0.76

3.59 ± 1.43

NS

 

 

 

肺炎※

7 (16.3%)

1 (2.4%)

0.031

85.2%

13.9%

7.1 (3.8 −47.6)

中耳炎

0

0

1.000

 

 

 

下痢(副作用)

2 (4.6%)

5 (11.9%)

0.216

61.3%*

7.3%*

13.7* (5.3 - 23.3)

発疹(副作用)

0

1 (2.4%)

0.494

 

2.4%*

 

※肺炎:プラセボ群  7例中6例はCRP,WBCの増加なくウイルス性と考えられた → 経過観察のみで治癒
              1例は細菌性肺炎と考えられ、5日目より抗生物質を投与し治癒した。
              SBTPC群の1例はCRP,WBCの増加なくウイルス性と考えられた

結果の中では,確かに肺炎はSBTPC群で少なく有意差が見られた.しかしPlacebo群で肺炎が1例少なく6例であったなら,有意差は見られなくなるほどその差はわずかなものである.そもそも肺炎の定義も判定者も明記されていない.治療関連検討項目が肺炎と中耳炎の2項目であるが,優先順位が書かれていないので,ボンフェローニ補正を行って,p値が0.05/2=0.025以下でなければ有意とは取らないと言う,厳しい見方をしても良いのかもしれない.実際の臨床現場から求められるoutcomeとしては,「胸部レントゲン撮影や採血頻度を減らせるか」とか,「保護者の不安感を減らせるか」と言うものが検討して欲しかったとの指摘もあった.
C.結果は自分の患者の治療に参考になるか?
1.自分の患者と研究対象患者は似ているか?
  はい.この研究の行われたのはおそらく地域の中核病院のひとつと考えられるが、慢性疾患の患者は除外されており開業医を受診する患者さんと大きな違いはないのではないかと考える。

2.その治療は自分の患者に実行可能か?
はい.問題なく行える.
3.その治療によって自分の患者にどんな利益が得られそうか?またどんな害が起こりうるか?
  抗生物質投与群で有意差をもって肺炎が少なかった。しかしそのほとんどがウイルス性と考えられる病像で抗生物質が有効であったかどうかはわからない。一方、有意差はないものの抗生物質が関与したかもしれない下痢と発疹がおきている。抗生物質が有効であるかどうかはっきりしないので、副作用を考えると投与するメリットはないかもしれない。

4.この治療や治療がもたらす結果は、自分の患者の希望や価値観と合致するか?
  患者さんのほうが抗生物質の投与を希望されれば(副作用のことを理解してもらった上で)処方してもいいか?


引用論文2
Effect of antibiotic treatment in the subset of common-cold patients who have bacteria in nasopharyngeal secretions.
KAISER L et al, Lancet 996;347:1507-10.

批判的吟味者:名城大学薬学部医薬情報センター 矢野玲子 
 はざま医院      
               伊藤伸介 

Abstract

BACKGROUND: Upper-respiratory-tract infection is one of the main causes of overuse of antibiotics. We have found previously that bacteria such as Haemophilus influenzae, Moraxella catarrhalis, and Streptococcus pneumoniae can be isolated from the nasopharyngeal secretions of a substantial proportion of adults with upper-respiratory-tract infections. We have assessed the efficacy of co-amoxiclav in patients with common colds but no clinical signs of sinusitis or other indications for antibiotics. METHODS: Between January, 1992 and March, 1994, 314 patients who presented to our outpatient clinic with common colds were enrolled in the double-blind, placebo-controlled study. They were randomly assigned 5 days' treatment with co-amoxiclav (375 mg three times daily) or identical placebo. Clinical examinations were done at enrolment and on day 5-7 to assess outcome (cured, persistent symptoms, worse symptoms). Seven patients were excluded after randomisation, seven did not have nasopharyngeal aspiration, and 12 did not return for followup assessment. FINDINGS: Of 300 patients with nasopharyngeal aspirates, 72 had negative bacterial cultures, 167 had cultures positive only for bacteria unrelated to respiratory infections, and 61 had cultures positive for H influenzae, M catarrhalis, or S pneumoniae. At 5-day follow-up of these culture-positive patients, the distribution of outcome was significantly better among co-amoxiclav-treated (n=30) than placebo-treated (n=28) patients (cured 27 vs 4%; persistent symptoms 70 vs 60%; worse symptoms 3 vs 36%; p=0.001). Patients on co-amoxiclav also scored their symptoms significantly lower than patients on placebo (p=0.008). Among culture-negative patients (n=230), the outcome distribution did not differ between the treatment groups (p=0.392). INTERPRETATION: The majority of patients with upper-respiratory-tract infection do not benefit from antibiotics and side-effects are frequent. However, for the subgroup whose nasopharyngeal secretions contain H influenzae, M catarrhalis, or S pneumoniae, antibiotics are clinically beneficial.

論文のPECO
P:合併症を有さないcommon coldの患者の内,研究登録時(初診時)の鼻咽頭分泌物から,H infuenzae, M catarrhalis, S pneumoniaeが培養で検出された患者
E
Co-amoxiclav375mg×3/日を5日間併用すると
C
:プラセボに較べて
O
:治癒率(医師が判定)と症状点数(患者が判定)が,どうなるか

もう一つのPECO
P:合併症を有さないcommon cold(鼻詰まり・鼻水・咽頭炎を伴った上気道感染症の徴候のある患者)の患者.登録時に抗生物質を必要とする合併症 (p1507右下)を認めた症例は除外され登録されていない.
E
Co-amoxiclav375mg×3/日を5日間併用すると
C
:プラセボに較べて
O
:鼻汁,痰,頭痛,咽頭痛,咳,嗄声,倦怠感,胃腸障害についての症状点数が,どうなるか
「陽性群」は、H.InfluenzaeM.CatarrhalisS.Pneumoniaeのいずれかが陽性と後日培養で判明した群.「陰性群」は、呼吸器感染症に関連しない菌が陽性、もしくは細菌検査陰性であった群を示します。

A.結果は信頼できるか

1.対象患者は治療群と対照群に無作為に割り付けられているか
はい.「患者は無作為に、Co-amoxiclav(375mg)かプラセボを13×5日間投与に割付された。」と記載あり。しかし、ランダム化の方法は記載されてない。

2.研究対象患者の全てが結果に反映されているか
いいえ。下記の理由で26人が脱落している.
追跡率は288人/314人=91.7
除外その1(7人)理由不明であるが、ランダム化後除外
除外その2(7人)鼻汁吸引を行っていないため除外
除外その3(12人)フォローアップがないため除外
※除外その2とその3は、フォローアップなしとも記載されてる。
※脱落群の登録時の背景は,それ以外の288例と類似していたと言う記載あり.

3.フォローアップ中に脱落症例はないか
ある。19人。除外その2とその3。

4.最初の割付のまま評価されているか
記載無し。しかし、おそらくOKであろう.

5.患者、医師、研究者がいずれも患者の治療内容を盲検化されているか
「二重盲検比較試験」と記載あり。三重盲検か否かは,判らない.
「症状悪化の場合、抗生物質治療が許可されていたが、患者がどの群に割り付けられているかは知らされないままであった」とも記載あり。

6.研究の最初の患者背景は両群で同じか
   
患者背景については,上気道感染と関連する細菌培養陽性群と、陰性群での比較のみ表 示されていた(table1)。
         
             table1で有意差が認められた最初の患者背景
 

陽性群  

   陰性群            

  症状スコアの中央値

10(812)      

8 610

0.001

鼻汁白血球数の中央値

30(2.5140)

7.5(2.563)    

0.031

  放射線医学上の副鼻腔炎

17(30)

37  (16)       

0.034

陽性群および陰性群のsubgroupでは、Co-amoxiclav群とプラセボ群、それぞれの患者背景について記載無し。しかし患者の実数は陽性群(プラセボ:Co-amoxiclav30:28)、陰性群(プラセボ:Co-amoxiclav=114:116)とほぼ同数になっている。
H influenzae
M catarrhalis S pneumoniaeと言う3つの細菌(以下3菌)の有無で生じる不均一性はmultinomial logistic modelで処理と記載 (1508右上から10行目)

7.研究対象の治療以外の治療は両群で同じか
いいえ.エントリー時には,実薬(Co-amoxiclav)とプラセボにランダムに割り付けされた以外は,両群間の扱いは同じ.しかし副鼻腔炎,化膿性気管支炎などに進展し症状が悪化したと判定されたとき、オープンな抗生物質治療の追加が許可されていた.
 陽性群のsubgroupでは,このオープンな抗生物質追加を必要とした症例は,Co-amoxiclavに割り振られていた症例(n=30)の中では310,プラセボに割り振られていた症例(n=28)の中では1139%であった (table3).つまり陽性群では,プラセボに割り振られた症例に,有意に多くオープンの抗生剤治療追加を必要とした症例が多かった(OR 5.8, 95CI:1.2-31.3).これはプラセボに割り振られた症例にもかかわらず,実際には抗生剤と言う培養陽性患者の治癒を促すような薬物治療を受けた症例が多く含まれていたことを示す.これはプラセボ群にとってはその治療効果を水増し,実薬群との差を小さくする「一方向性バイアス」として働く.
 陰性群のsubgroupでは,Co-amoxiclav群(6,5%)、プラセボ群 (7,5)であり、差なし。

8.サンプルサイズの設定は妥当か
はい.以前に行われた研究(17)から,(カゼの?)患者の20%は3つの細菌のcarrierであることと,プラセボでは5日後の治癒率が40%であるが,Co-amoxiclav使用群は80%であることが判明している.以上からこの仮説を検出力80%,有意レベル5%で試験するため,270例が必要と計算された(p1508左下から右上) .実際に集計された314例から脱落を除いた288例は,バッチリこのサイズに適合している.脱落の割合の見込みも見事である.

B.結果はどのようなものか
9.結果はどれほど大きなものか(効果の差を見る)
10
.結果からの予測はどれほど正確か(信頼区間の狭さを見る)
   
※9.10.は一緒にしました。
・症状点数(Figure)
   
陽性群では5日目の時点で,実薬群はプラセボ群に比較して有意に改善 (p=0.008)
   
陰性群では5日目の時点で,両群に差無し(p=0.1).むしろプラセボ群の方が改善傾向
・治療5日目での結果(Table2

 

培養陽性(n=58) p=0.001

培養陰性(n=230) p=0.392

プラセボ

n=28

Co-amoxiclav

=30

NNT(95%CI)

プラセボ

=114

Co-amoxiclav

=116

NNT(95%CI)

治癒

1(4%)

8(27%)

4(3~166)

47(41%)

41(35%)

-17(-5~18)

症状持続

17(60%)

21(70%)

11(3~-6)

59(52%)

70(61%)

12(-20~5)

症状悪化

10(36%)

1(3%)

-3(-2~-5)

8(7%)

5(4%)

-37(-10~63)

陽性群の中の解析では,primary endpointの一つである「5日目の治癒」はCo-amoxiclav群で有意に良い(p=0.001)95%CI3166とばらつきは多いがNNT4。5日目の症状点数も有意に改善(p=0.008).一方培養陰性群では,Co-amoxiclav群とプラセボ群の差は全く無い.それどころか実薬群の方が治癒,症状持続については悪い傾向も見られる.

・有害作用(p15094つ目パラグラフ)
胃腸障害や下痢が,146例の実薬群から34(23%)142例のプラセボ群から7(5%)みられた.オッズ比5.9 95%CI 2.4-15.1 p<0.001NNH1/0.23-0.055.6(4-9)

C.結果は自分のそして自分の患者の役に立つか
11.対象患者から見て、この結果は自分の患者に当てはめることはできるか
 
◆矢野玲子の意見:
common-cold
を対象とした論文であるため、インフルエンザの患者に当てはめられない。しかし、インフルエンザかな?の時に、抗生物質治療を行うかどうかの点から考えると当てはめられると考えられる。また、論文は小児を対象としていない
「平均年齢31歳。範囲14-64歳」。従って、菌の種類、薬の効果/副作用などに小児特有のものがないか確認必要。また、味はおいしいか。小児ががまんできる苦さか(アモキシシリンはわずかに苦い)。また、当てはめられない点というより疑問ですが・・・.Co-amoxiclav(アモキシシリン/クラブラン酸の合剤=オーグメンチン)は、こういう状況でよく処方される薬?感受性は、「分離された細菌は、Co-amoxiclavに感受性あり」と記載されているので問題ないでしょうが。

 
◆伊藤伸介の意見:
今回の小児のインフルエンザ症例については「いいえ」。しかし成人のカゼ症候群にはバッチリ適応できる.カゼ症候群の患者に抗生物質を処方しても全体では5日目の治癒には全く差はないと言うことが判った.初診時に3菌培養陽性と判るはずは無いが,もし培養陽性と初診時に判ったとして,Co-amoxiclavを始めから使用すると,5日目の治癒のNNT 4が得られる.しかしそれはカゼ患者の内,ほんの一部の患者である(陽性群の58例中の8例,全体に対して2.8(8/288)).オープンの抗生物質投与を受けた14例を含めると,7.6%(8+14/288).本文中には培養陽性と陰性の2群の独立した成績しか書かれていないので,カゼ症候群288例全例について2群の成績を合算して,実薬群とプラセボ群の5日目の治癒を比較した.すると陰性群単独の解析同様,まったく差がないことが判った.NNT-4152群に全く差がないことを示している.もし仮にCo-amoxiclav群に5日目の治癒が1人多く,その率が34.2%だったなら,NNT225(-810)になる.つまり0から大きくはずれたNNTはプラス側であろうと,マイナス側であろうと意味は殆ど無限大,差はないと言うことと同じである.

 

プラセボ群

n=28+114142

Co-amoxiclav

=30+116=146

NNT

オッズ比

5日目の治癒

1+47(33.8%)

8+41(33.6%)

-415-10~9

0.99(0.66-1.55)


以上より,診療所の医師である私としては,論文の除外規定(P1507右,patient&methodsの最初のパラグラフ)を適応して,純粋に「カゼ症候群」と診断できた患者には,初診時から抗生物質は処方せず,途中必要となったら即処方する方針で行くこととした.

12
.全ての重要な転帰が検討されているか
 
◆矢野玲子の意見:
前回あがっていた転帰として、合併症(肺炎、中耳炎)の発生率、罹病期間、入院率などがあげられる。合併症については、オープンな抗生剤を必要とした患者数から把握できる。しかし、肺炎や中耳炎はtable3に記載されていない(0例か?)。罹病期間については検討されていないが、治療5日目の結果はtable2で検討されている。また、入院率については記載無し。例えば、私が風邪をひいた時の重要な転帰を考えると、それは明日仕事に行け
るかどうかである。そして、その判断基準は、今までは熱だけだったが、前回あがっていた肺炎や中耳炎の合併症も重要な転帰とわかった。論文では「9つの症状について03の点をつけた」と記載されているが、この9つの症状に熱が含まれているか確認できず、また、肺炎や中耳炎の発生率についても確認できなかった。

 
◆伊藤伸介の意見:
はい.治療開始後5日目の治癒率と,症状点数だけで,QOLや休職の有無などは検定されていない.しかし風邪の治療効果としては,これで十分ではないだろうか.会社や学校を休むかは,個人の事情で大きく左右される評価項目である.QOLは症状点数で大体予想がつく.

13
.その治療による益は、害やコストに見合ったものか
 
◆矢野玲子の意見:
 この論文からは、インフルエンザに対する抗生物質の有効性はわからない。しかし、インフルエンザかもしれない風邪患者に対して抗生物質を投与した場合の有効性について次のようなことがわかった。つまり、3菌のいずれかが陽性である患者(陽性群)に対してCo-amoxiclavを投与した場合、5日目の治癒のNNT1/(8/30-1/28)=4.3であるが、陰性群では無効である。しかし、陽性・陰性の判定に「12日の培養期間が必要(論文中)」であり、実際は判定前に抗生物質投与が検討されると思われる。
 全症例を対象とした5日目の治癒のNNTは、1/(49/146-48/142)=414.6!である。また、Co-amoxiclavを投与した場合、消化器症状や下痢といった副作用は約20%でみられ、プラセボ群に対するCo-amoxiclav群のオッズ比は5.995CI2.415.1,p<0.001)である。風邪の治癒を期待するのであれば、治療による益は害に見合っていないと思われる。しかし、風邪の悪化予防を期待するのであれば、1/(18/142-6/146)=11.7であり、抗生物質投与を必ずしも否定できないと考えられた。

 
◆伊藤伸介の意見:
 カゼ症候群全体でみると,この論文からはCo-amoxiclavの使用は無駄と言うことになる.それどころか 有害作用が生じる(胃腸障害や下痢,NNH5.6).しかし「先生,カゼひきました.抗生物質を是非ください」と希望してやって来る患者に対しては,抗生物質代はプラセボ効果を発揮するかも知れない.Patient preferenceに反して「カゼに抗生物質を使用した場合のNNTは殆ど無限大,つまり使っても使わなくても治癒や症状改善に全く差はなく,はっきり言って無駄です」と言ってお引取り願うと言うことで良いか,医院の評判もあることだし・・… ^^;)
 
一方,培養陽性群ではCo-amoxiclavは有効であるが,臨床症状では見分けることはできない(p15104パラグラフに明記してある).将来DNA診断などで,初診の段階で培養陽性群のインスタント診断が出来るようになれば,5日目の治癒のNNT4,NNH5.6を考慮しつつ培養陽性と判明する患者にCo-amoxiclavの投与を考慮しても良いのかもしれない.でもカゼ症候群でDNA診断までするだろうか?

Step4 患者への適応
以上の批判的吟味を終えたあと,TV会議に参加している全員で,小児のインフルエンザに抗生物質を初めから処方するか討論を行った.まず,抗生物質を処方するかしないかについて「処方する」としたのは2名であった.理由は出さなかった場合あとで何で出さなかったんだと言われると困るので短い日数で出すと言うものと,一人診療所で他の状況が判らないので出すと言うものであった.「処方しない」としたのは8名.保護者の希望が強ければ副作用について情報を提供し話し合った上で出すかも知れないと言う意見や,肺炎はレントゲン上ウィルス性で下痢も起きる(Maeda論文でのNNH13*)ので,矢張り出さないと言うような意見が大半であった.著者も勧めていないと言う記載があると言う意見も出た.
  *有害作用を示すNNHは切り下げで理解することとした
まとめ

1.        インフルエンザに処方するなら,アマンタジンやザナミビルであろう.小児のインフルエンザや風邪に,抗生物質を使用する根拠となるEvidenceは,これら抗ウィルス剤の有用性に関するEvidenceに比較して,はるかに弱いEvidenceしか存在せず,このパワーの小さな根拠に基づいて投与するか否か判断するしかない.

2.        Maeda 論文のAbstractでは,インフルエンザにおける抗生物質の使用は肺炎の頻度を低下させると結論しているのに,実際の論文の結論では,合併症を起こしやすいハイリスク群にしか勧めないとしている.結構穴があって面白い論文であった.

ご意見(フィードバック)をお待ちしております