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テーマ  糖尿病の診断にブドウ糖負荷テストは必要か

シナリオ
私は診療所の医師である.生来健康であるが,健康診断でHbA1c6.8%あり診療所を受診するように言われた62の男性が受診した.糖尿病が疑われ次回は採血検査のために,空腹で来院するように話したところ,ブドウ糖を飲む検査はしなくて良いのかと質問があった.そう言えば糖尿病を疑っても最近滅多にOGTT(経口ブドウ糖負荷テスト)をしていないことに気付いた私は,糖尿病の診断とOGTTHbA1cの関係について一度調べてみることにした.
Step 1 PECOの設定
P:糖尿病が疑われる62歳の男性
E:HbA1cを調べた場合
C:OGTTに比較して
O:糖尿病の診断精度はどのように異なるのか

Step 2 情報収集


情報源  : Best evidence 4, Cocrhane library 1999 issue 4

検索用語: 
     Best evidence 4: Diabetes and diagnosis
Cocrhane library1999 issue4: diabetes-mellitus(MeSH) and hemoglobin-A-glycosylated(MeSH) and sensitivity and specificity. これで得られた7論文のうち,Database of Abstract of Reviews of Effectiveness (DARE) に見られた論文を選択した

収集論文: 
Best evidence, Cochrane library 両者から下記論文が得られた
A Clinical Approach for the Diagnosis of Diabetes Mellitus -An Analysis Using Glycosylated Hemoglobin Levels - Peters AL et al. JAMA.1996;276:1246-52

Step 3 批判的吟味  
Critically Appraised Topics (CATS)
結論 糖尿病の診断を行うのに,HbA1c7.0%以上とすれば良い
簡潔なサマリー HbA1cは血糖コントロール全般と,薬物療法の必要性を知る指標として,計り知れないほど貴重である.Microangiopathyや末梢神経障害の進展も予測する.OGTTは糖代謝異常を持つ人々を認識するだけの非生理的ストレスに過ぎない
引用文献 A Clinical Approach for the Diagnosis of Diabetes Mellitus -An Analysis Using Glycosylated Hemoglobin Levels - Peters AL et al. JAMA.1996;276:1246-52
筆頭著者FAX/E-mail not available 
検索用語 Diabetes and diagnosis
Source Best evidence 4

研究方法
方法       meta-analysis
・対象患者     Medlineで1966年から1994年までを検索.糖化ヘモグロビンとOGTTが同時に行われている研究への参加症例
・除外基準      データが提供されなかったケース.耐糖能に影響を与える情況の混在するケース
・検査法
スタンダード
1. 75gOGTTに換算し,WHOおよびNational Diabetes Data Groupの基準で,正常・IGT・糖尿病に分類(表1)
2. HbA1c5.2%を中心に分布する群を正常,HbA1c10.4%を中心に分布する群を糖尿病と仮定して決められた基準をスタンダートとして採用して比較(表2)
対象
HbA1c (HbA1c以外の糖化ヘモグロビンは,HbA1cに換算して検討)

結果(Evidence)

(表1) 単純にOGTTの結果をスタンダードとしてHbA1cの感度,特異度,LRをみると
HbA1c 感度 特異度 LR+ LR-
6.3%以上 66% 98% 33 0.35
6.8%以上 48% 100% 0.52
7.3%以上 36% 100% 0.64
(表2) 最終解析対象となった8984例のHbA1cは3層性の分布を示した(原本のFigure2 右図).第1群はHbA1c5.2%を中心にして分布する群で,この群のHbA1cはOGTT正常群のHbA1c5.3%とほぼ正確に一致している.第3群はHbA1c10.4%を中心に分布する群で,この群は糖尿病群と考えられる.残りの第2群はHbA1c6.4%を中心にして分布する群で,正常でも糖尿病でもない未決定群と仮定できる.
  ここで,感度を第3群に属する症例の中で,カットポイントとされたHbA1c以上の数字を示す症例の確率,特異度を第1群に属する症例の中で,カットポイントとされたHbA1c以下の数字を示す症例の確率と定義して,HbA1cの特性を見ると下記の表のようになる.
カットポイントとなるHbA1c 感度 特異度 LR+ LR-
5.5% 100% 69.1% 3.2 0
6.0% 100% 90.9% 10.2 0
6.5% 100% 98.5% 78.5 0
7.0% 99.6% 99.9% 782 0.003
7.5% 98.9% 100% 0.01
          批判的吟味の全体はこちらです

コメント:

OGTTで糖尿病と診断されても,HbA1c 7.0%以上であることは40%しかない.つまりOGTTで糖尿病域であっても,60%の人はHbA1c7.0%未満である.

HbA1cは3層性の分布を示した.5.2%を中心にする第1群を正常者,10.4%を中心にする第3群を糖尿病と仮定して,第1群に属する症例の中でカットポイントとされたHbA1c以下の数字を示す症例の確率を特異度,第3群に属する症例の中でカットポイントとされたHbA1c以上の数字を示す症例の確率を感度とすると,HbA1c6.0%以上にて10以上と言う十分な陽性尤度比,陰性尤度比が得られた.以上がこのMeta-analysisによって分かったことである.

この論文は総説であるためか,成績では触れられていない以下の点について言及されていた.つまりHbA1c 7.0%上の患者を見つけるということは,薬物療法の必要のある患者を認識すると言うことである.血糖のコントロールはこのグループに焦点を当てるべきであると.

吟味者  伊藤伸介  2000年4月21日
Step 4 患者への適応
  確かに介入を必要としない糖尿病患者をOGTTで見つけても,それはlabeling effectを与えるだけで,患者にも医療者にも得することはない.DCCTにせよUKPDSにせよ,糖尿病の指標として用いられているのはHbA1cであり,OGTTの結果に基づいて合併症の進展を予測することはできない.当初この患者のHbA1cは6.8%で,糖尿病か否か迷わしい数字であると思われた.しかしHbA1c6.8%以上であれば,表1よりOGTTを行って糖尿病と判定されるLRは∞であることが分かった.つまりOGTTを行わなくてもOGTT上糖尿病域である確率が100%であることが,この論文を読んで判明した.この患者はOGTTを行わなくてもOGTTの結果を知ることができたのである.またHbA1cは7.0%未満であるので,性急な薬物介入も必要としないことが分った.

  空腹時血糖に関しては,この論文の中で115mg/dl以下であれば耐糖能正常であるとされていたので,次回来院時測定し,結果次第で矢張りOGTTは不必要であることを説明する材料になりそうである.

  以上より,当初考えたようにOGTTは行わず,標準体重から算出した食事摂取量に合わせて,栄養士による食事指導を受けて頂き,3ヶ月後くらいにHbA1cを再測定し,非薬物療法がうまく行っているか検証してはどうかと,次回来院時に説明することとした.
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